酒場のカオス【スズキナオ】

お酒を飲んでいると、思いもかけない出来事に遭遇ことがある。たまたまなのか、はたまたお酒を飲んでいたからこそ引き寄せた出来事なのか……。今回はスズキナオさんによるそんなお話。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

もう後へは引けない

かなり昔の記憶なのだが、友達と繁華街で飲んだ後、近くにあった大きなゲームセンターにふらっと立ち寄った。なんとはなしに、あれもUFOキャッチャーの一種ということでいいのだろうか、半球のカプセルの中に飴玉だの小さなマスコットだの、雑多なものが入っているのをすくい上げて、動くバーの上に落とす、そのバーが落としたものをグイーッと押してくれて、取り出し口まで上手に押し出せたらそれをもらえる、というようなゲーム機で遊んだ。

私がやったのはラムネかガムかがあらかじめ取り出し口のそばにうず高く積まれているもので、射幸心をあおるというか、その塊を少しだけ押し出せばバランスが一気に崩れてガラーっと大量のお菓子が落ちてきそうな風になっている。

もちろん、ゲームセンター側もよく考えていて、うず高く積まれた菓子は重さもあるのだろうし、高く積まれ過ぎて突っ張り棒のような役目を果たし、簡単には落ちてこないようになっているようだ。だけど、「あと少し、あそこに落とせれば、これ一気にいくでしょ!」みたいに思ってしまう。1PLAY100円。酔った勢いで300円ぐらい投入してしまうと、もう後へは引けなくなった。惜しいのだ。もう少しなのだ。

ゲーム王に、会えた!

しかもここで今私がやめて、次の人が一発で大量のお菓子をゲットしたとしたらどうだろう。悔し過ぎるではないか。「これもう、俺、絶対に落とすわ!」と、頭に血が上り、財布の中の千円札を両替して100円玉を次々投入。それでも全然落ちない。しかし、あと一歩だという気はする。やめられない。

確か、記憶では3,000円ほど使ったはずである。「やばい!俺もう3000円使ってるんだけど」と友達に言い、言った自分もそれを横で見ていた友達も笑いが止まらなくなった。「はははは!どんだけラムネ買えるんだよ!」と腹をよじるようにしながら、4枚目の千円札を崩しに行った時、そのゲームセンターに伊集院光氏が入ってきた。

私にとって当時の伊集院氏はとりわけゲーム通としてのイメージが強く、「週刊ファミ通」に連載をされていたり、ゲーム関連の番組にも出演されていたと思う。中学時代からゲームしかしてこなかったような私にとってはもちろん尊敬する人であり、想像上の人物のような遠い存在であった。そんな彼がいきなり現れたのだ。

そもそもラムネに4,000円近く突っ込もうとしている状況に笑いが止まらなくなっていたところにそんなことがあったので、私と友人は「やばい!ゲーム王に、会えた!」みたいにテンションが上がりまくり、「たぶんもうこれ以上のこと起きないだろう」と思って、そこでUFOキャッチャーをやめて店を出て興奮しながら次の飲み屋へ移動した。

その時のことは私の記憶の中で「物事を突き詰めて無心になった時、なんか変なことが起こる」という寓話みたいな、大事なものとして存在している。ゲームを楽しみに来られた伊集院氏にはまったく関係なく勝手に喜んでしまい、申し訳ありません。

旨い肉と酒と奇遇

これも結構前の話なのだが、都内のあるモツ焼き屋さんでのこと。その店は大将がとにかくガンコなので有名で、メディアの取材も受けないし、マナーに反した振る舞いをするとビシッと叱られる。時にピリピリしたムードが漂うのだが、でも肉は驚くほど美味しい。そもそも私はピリピリした雰囲気の店で黙りこくって飲むのも嫌いじゃない方なので、一時期よく通っていた。

その日、私は3人組で店に行き、しばらく並んだ末に席についた。季節にもよるのかもしれないが、その時は店の外にいくつかテーブルが出されていて、外の空気に触れながら飲むホッピーが美味しかった。カウンターに座ってるお客さんがバケツリレーのように外にいる客にモツ焼きを運んでくれる。そしてそれが今日も最高に旨い。

「うめー!なんでこんなに旨いんだろうなー!うめー!」と喜んで、ふと見まわしたら、私と同じ外の席についている客の中に知り合いが座っているのに気がついた。音楽仲間で、ある頃は頻繁に一緒のイベントに出させてもらったりしていて、それ以来久しく会っていない人であった。テンションも上がり、懐かしさもあって、思わず立ってその人のところまで行き、「久しぶりです!こんなところでお会いできるとは!」と少し会話していたのだが、すると大将に「勝手に席立たないでくれよ!」怒られた。「あ、すみません!」と謝って席に戻り、シュンとしつつも、旨い肉と酒と奇遇とが重なりあった妙な時間の高揚感を楽しんでいた。

一生懸命飲んでいると……

するとしばらくして、店に並ぶ列とは別のところから店内に入ってくる人の姿があり、ふいに大将との口論が始まった。あとで聞くと、予約不可の店にもかかわらず、「予約させろ」と酔ってしつこく絡んでくる客だったそうで、そのうち激高し、手に持っていたビニール傘で大将を突っついたんだという。

それで「おう何すんだこの!」みたいなことになり、常連客がそれを制止してもみ合い、最終的に「交番行くぞおい!」と言って大将とビニール傘の男とそれを押さえる常連客とが店を出て消えていった。

残された店の中の客も外の客も並んでいる数名もしばらくは緊迫した状況にシーンと静まり返っていたのだが、また別の常連客がサッと立ち上がってカウンターの内側にまわり、「はい!大将が戻ってくるまで私に任せてください。モツは焼けないけどホッピーの場所はわかりますんで!」と言うと、客たちから一斉に拍手がわき起こった。

路地裏の席で美味しいホッピーとモツを味わっていたら久しく会ってない友達が同じ店にいて、叱られて、大将がどこかへ行っちゃって、お客さんがカウンターに入って酒を出し始めて……って一気に色々なことが起きて頭の中が混乱している。さっき挨拶しに行って怒られた久々の知り合いが近づいてきて、「今日、なんなの!?」、「なんなんですかね」と笑いあった。一生懸命飲んでいると、変なことが起きたりするものである。

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パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!

スズキナオ /パリッコ

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