南へ、秘密の朝市

「ポルトガル食堂」の連載でもお馴染みの馬田草織さんの最新刊『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』の特別公開。今回は、ポルトガル最南端のアルガルヴェ地方で週末に開かれるファーマーズマーケットの様子をお伝えします。新鮮な野菜や豊富な香辛料に混じって、日本にも伝わったあの黄色くて甘い南蛮菓子にも出会います。

4章 ラゴス

南へ

 リスボンから高速バスで4時間。ポルトガル最南端のアルガルヴェ地方にある、ラゴスへ向かった。目的は3つ。大航海時代を築いたエンリケ航海王子ゆかりのサグレス岬と、アルガルヴェ生まれの鍋蒸し料理カタプラーナと、老舗の鶏肉料理チキンピリピリだ。

 午後2時、セッテ・リオス・バスターミナル発のバスは意外にも満席だった。隣に座っているのは、ブルーのストライプシャツが似合うアフリカ系の男子学生。長い足が座席からはみ出していて狭そうだ。聞けば、これから週末を過ごすために実家に帰るという。小腹が空いたので、売店で買ったばかりのケージョ・フレシュコと生ハムのサンドイッチを食べ始めると、彼も袋から黄色いクロワッサンを取り出し、頬張り出した。


 ポルトガルのクロワッサンは、クロワッサンであってそうではない。本家フランスのはらはらと層が崩れる軽やかなそれとは違い、日本の菓子パンのような、しっとり柔らかい食感。最初は職人の技術の違いかと思っていたが、評判の店に行ってもクロワッサンはやっぱりしっとり。食に詳しいポルトガルの友人に聞くと、ポルトガルでクロワッサンといえばそういうものだという。これは好みの問題なのだろう。慣れるとしっとりもありかもと思うが、やっぱり食べる度に、ポルトガルロールとか別の名を付けたくなる。

 車内は、携帯電話で家族にバスの到着時間を伝えたり、携帯の画面に映る子供の様子を楽しんだりとみんな賑やか。ようやく待ちに待った週末だという安堵感が広がっている。

 まもなく、バスは南へ向かって走り出した。テージョ川にかかる全長2キロの4月25日橋を渡り、活気のある港町セトューバルを過ぎ、広大なアレンテージョ地方を南へと進む。人家が消え、ブドウ畑が広がり始める。もう11月初旬、収穫はすっかり終わり、木に残ったブドウの葉が鮮やかに紅く染まっている。さらに進むと黄色く色づいた平原が表れ、間隔を置いてコルク樫の木が並ぶ。上の方に葉が繁っている様子は、広がり気味のブロッコリーにも見える。幹の下半分は樹皮をきれいに剥がされて丸裸だ、ちょっと寒そう。はがされて露になった幹の表面には、白くペンキで番号が振ってある。あれは確か、9年ごとにコルクの樹皮をはぐ作業のための覚書だったはず。バスの車窓から眺めながら、以前この地のワイン醸造家に聞いた話を思い出す。

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この連載について

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ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅

馬田草織

人生を変えてしまうような味に会いたい! ポルトガルの食をまるごと味わうコラム満載。家庭のキッチンから街角のレストランやカフェまで、縦横無尽に訪ね歩いた、めくるめく食旅エッセイ!

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コメント

39buncho あぁ… 食べてみたいです! 6ヶ月前 replyretweetfavorite