売れるには理由がある

最後の喜劇人・伊東四朗はなぜベンジャミン伊東を演じ切ったのか?

芸人たちをブレイクさせた「出会い」と「チャンス」を描いた「てれびのスキマ」こと戸部田誠さんの『売れるには理由がある』。その発売を記念してお送りする大好評連載、今回は……待ってました! 「人の迷惑顧みず」参上する伊東四朗の「電線音頭」! 「最後の喜劇人」とも称された伊東四朗が喜劇役者仲間から「大丈夫?」と本気で心配されるまでにベンジャミン伊東を演じ切った理由(わけ)、それは自分を隠すためだった――。

ベンジャミン伊東、小松与太八左衛門、電線マン

当時人気絶頂だったアイドル・キャンディーズが礼儀作法などを学んでいる。そこに“乱入”してくるのが、伊東四朗扮するベンジャミン伊東率いる「電線軍団」である。まずは小松政夫がコタツの上に駆け上がる。

「わたくし、四畳半のザット・エンターテイメント・小松与太八左衛門でございます!」

そんな名調子に続きベンジャミン伊東が紹介される。感電をした後のようなボサボサの頭とダリのような口ひげ、ド派手な青いラメのジャケットに片手にムチを持っている。アングラサーカス団の団長のようなアナーキーな風貌である。

「人の迷惑顧みずやってきました電線軍団!」

ベンジャミンの口上を合図に手拍子が巻き起こる。

「チュチュンがチュン チュチュンがチュン♪」

会場中に掛け声を響かせて始まるのが「電線音頭」だ。伊東はそれに合わせコタツの上に舞台にしてハイテンションで踊っていく。やがて、「ヨイヨイヨイヨイ おっとっとっと」と、その踊りはキャンディーズやゲストにも伝播していく。それはまさに「狂騒」と呼ぶに相応しいシュールな光景だ。さらにわけがわからないのは、数人が踊った後だ。

「はるか遠いニューギニアの火力発電所から100万ボルトの電線をひた走り只今参上!」と「デンセンマン」なる“ヒーロー”が登場し、まったく同じ踊りを披露し、そのまま去っていくのだ。なぜヒーローなのか、なぜニューギニアなのか、まったく意味不明。しかし「チュチュンがチュン」というフレーズが繰り返される音頭は麻薬的な快楽があった。

最後の喜劇人・伊東四朗

月曜夜8時から放送していた『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』(NETテレビ)で披露されたベンジャミン伊東こと伊東四朗による「電線音頭」は瞬く間に大ブームを巻き起こした。コタツの上で踊り狂うことから、それを子供たちがマネをしてしまうと社会問題になったほどだった。

けれど、この「電線音頭」を生み出したのは伊東四朗ではない。その前身番組である『ドカンと一発60分』で桂三枝(現・文枝)がコントの中でアドリブで歌ったものだった。これに手応えを感じたプロデューサーが、ひとつの独立したコーナーにすべく「電線軍団の団長になってくれ」と伊東を口説いたのだ。

伊東四朗はもともと大先輩である三波伸介と戸塚睦夫と組んだ「てんぷくトリオ」でブレイク。戸塚の病気などでそれぞれピンの活動が多くなると、『笑って!笑って!!60分』(TBS)などで小松政夫との息のあったコンビネーションが評判を呼んでいた。小林信彦は彼のことを「最後の喜劇人」と呼んでいる。

そんな伊東四朗にとっても「電線音頭」はわけのわからないものだった。こんなものがウケるのか、元来“引き芸”を得意とする伊東は決して乗り気ではなかった。だが、収録は再来週に迫っているという。追い詰められた伊東は、台本の裏に自分が想像したキャラクターを描いた。衣装やメイクを自ら提案したのだ。

それはせめてもの抵抗だった。いわば「自分隠し」だったのだ。

「四朗ちゃん、あんた大丈夫?」

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売れるには理由がある

戸部田 誠,てれびのスキマ,花小金井 正幸
太田出版
2019-03-26

この連載について

初回を読む
売れるには理由がある

てれびのスキマ(戸部田誠)

ツービート、タモリ、ダウンタウン、さまぁ~ず、オードリー、南海キャンディーズ、古坂大魔王(ピコ太郎)……。あの人気芸人たちをブレイクさせた「出会い」と「チャンス」を描いた「てれびのスキマ」こと戸部田誠さんの新刊『売れるには理由がある』...もっと読む

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