(写真は時事通信社提供)
——お二人が使用されているグラブについての〝こだわり〟を教えて下さい。
井端 僕のグラブは、5年前に引退されたのですが、ミズノの坪田信義さんという名人に長い間、作ってもらっていました。グラブの注文はひたすら硬いものを作って欲しいとお願いしています。こだわりは硬さと軽さですね。湿気で柔らかくなったり、バッグに入れて型が崩れることが嫌なので、遠征ではカメラマンが使うようなジュラルミンケースに入れて持ち運びしています。
荒木 僕も、まずは硬いのを作って欲しいんですよ。最初は坪田さんのを使っていたんですが、僕にとっては、ちょっと柔らかくて。グラブというのは、それくらい繊細なものですね。坪田さんが引退されてから革なんかも変わったような気もします。僕は、若い頃、井端さんがどんなグラブを使ってんだろうと、よく盗み見していました(笑)。
井端 僕のグラブは基本的に子供でも使える素人向きだと思います。
——素人向き? どの辺りがそうですか?
井端 オーソドックスで、おそらく野球をやったことのない人が僕のグラブをはめてみたら「ああ、いいね。合うね」と言う感じだと思うんです。硬くて、しっかりとポケット(捕球ポイント)もできていますからね。
荒木 芸術品ですね。そんなグラブ。
井端 でも、荒木のグラブは、荒木でないと使いこなせないグラブじゃないかなと思います。そうだろう?
荒木 僕は、使いながらグラブが、まるで手のようにグチャグチャになっていくのが好きですからね。井端さんと同じくフィット感を大事にしています。どちらかと言えば、形や型はあまり気にしていないですから。井端さんって、グラブをしょっちゅう替えていませんか? 「それいつ作ったんですか?」って言うくらい替わっていますよね?
井端 そうそう。今年も開幕して1週間で新しいグラブに替えました。それでは、さすがに早すぎたんで、また前のグラブに戻して、その新しいのを1か月くらい練習で使ってから試合で使い始めました。
荒木 井端さんはオープン戦なんかでは、グラブが届いたその日に試合で新品を使ったりしますよね? 僕なんか使いながらグローブを自分の型に変えていくので、考えられないです。怖くて、いきなり試合では使えないです。
井端 確かに僕の場合は、新品グラブを試合で使うのは早いかもしれない(笑)。
荒木 それこそ井端さんは、ほとんどの打球を股を割って捕球するんでグラブが新しくて硬くても関係ないんでしょうね。グラブを置く位置が悪ければ、新しくて硬いグラブでは打球を弾いてしまうんだけど、井端さんは、打球に対してグラブを早く準備して、ぶれないから新しいグラブでも大丈夫なんでしょう。そこがプロですね。
——守備について影響を受けた人はいらっしゃいますか?
井端 最初は久慈さんですね。キャンプなどでは、久慈さんと一緒にノックを受ける機会もあったので、ずっと後ろで守備を観察させてもらって勉強させてもらいましたね。素晴らしいフットワークと、上体への連動。内野手には、捕ることと投げることをしっかりと分けるタイプと、それが連動するタイプがいますが、久慈さんは、流れの中で抜群の守備をされていました。
荒木 久慈さんが中日に移籍してきたとき、僕は二軍だったので、なかなか一緒に練習できる機会がなくて、見て盗むというチャンスはそれほど多くはありませんでした。僕はセカンドでしたが、やはり近くにいたショートの井端さんの影響を受けました。本当に色々と勉強させてもらいました。
井端 他球団でも影響を受けた人はいました。僕が入団したときには、横浜の石井琢朗さん、ヤクルトの宮本慎也さんと、ショートにはゴールデン・グラブ賞の常連とも言える職人がたくさんいました。そういう他球団の上手い人のプレーは試合でしか見られないんですけど、シートノックの段階から熱心に見ていましたね。
荒木 確かに、その頃のセ・リーグのショートは、ゴールデン・グラブ賞争いの激戦区でした。巨人に川相昌弘さんがいて、ヤクルトに宮本さんがいて、横浜の石井さん。そこに井端さんが若手で入ってきた。僕はセカンドで守備位置は違いますが、ショートの方々の守備は練習から食い入るように見ていましたね。でも、守備について何かを直接、聞いたという機会はないですね。それはチーム内でも、それこそ井端さんにも。
井端 当時は、そんなのはないよね。僕も、久慈さんに直接、何かを教わるということはありませんでした。そのプレーをじっと観察するだけ。見て、そこから何かを感じて学ぶんです。
荒木 近くで見て、「よし! オレもどうにかしよう」と思うんですよね。
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