あらゆる店がスタンド割烹?【パリッコ、スズキナオ】

毎週火曜と土曜に更新している本連載も早くも20回突破ということで、パリッコさん、スズキナオさんによる恒例の振り返り対談を前後編でお届けします。対談はパリッコさんが最近したという、おもしろい体験の話から始まりました。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

お互いに見えていなかった店

パリッコ(以下パリ) 昨日、ちょっとおもしろいことがあったんですが、聞いてもらってもいいですか?

スズキナオ(以下ナオ) もちろんです。

パリ とある出版社の編集さんたちと渋谷でひとつ仕事を終えて、軽く飲みつつ今後の打ち合わせをして帰りましょうってことになったんですよ。で、「渋谷ならどのへんで飲むんですか?」って聞かれて。

ナオ 渋谷難しいですよね。「細雪」なくなっちゃったし。

パリ そう! 我々が大好きだった、渋谷の奇跡と言われた、あの安くて小汚くて最高な店。ど駅前にあるのに、ほとんどの人がその存在にすら気づかず素通りするので、「見える人にしか見えない店」なんて呼んでましたよね。

ナオ うんうん。

パリ その細雪の話をちょっとしたりして、みんな「へ〜、確かに知らないですね〜」なんて。それで、ひとりの女性編集者さんが学生の頃から行ってる、落ち着けて魚介系の料理が美味しいお店があるそうで、そこに行ってみようってことになったんです。

ナオ いわゆるちょっと良さそうなお店ね。

パリ そしたらなんと、場所が細雪の2階で。

ナオ はは!

パリ 「細雪、ここの1階にあったんですよ!」って言ったら、「そんな店ありましたっけ?」って。

ナオ 横の階段をのぼってるのに知らない店。

パリ そこまで存在隠してたかっていう。

ナオ そういえばありますよね、2階にそんな店。一度飲んだことあります。……いやなかったかも? 記憶が薄い。

パリ 我々にとっては2階こそが見えない店だった。同じ酒好きでもこうも視野が違うんですね。

ナオ その幅がいい。得意分野というか。

パリ ただ、反省もありました。例えば美容室とか、自分があんま興味ないジャンルのお店は見えないけえど、酒場は一応視界に入ってるだろうという自負があったんですよ。全っ然そんなことない!

ナオ そうですねー。無意識のうちに行きたい店とあんまり行かなそうな店を仕分けてる。たとえば、「割烹」とか言われるとちょっと見えなくなりますよ。

パリ 見えないなー。ただ、「スタンド割烹」になると見える。

ナオ 見える。

スタンド割烹

ナオ しかしあれは何? 立ち料亭?

パリ 地元に、看板にスタンド割烹を掲げてる店あるんですが、あれって実は、別に立ち飲み屋じゃないんですよ。

ナオ わー! 騙された。

パリ 衝撃の事実でしょ?

ナオ そうか、スタンドって「止まり木」的な?

パリ 京都の「京極スタンド」とかの感じなのかな。

ナオ それか店が建ってるっていうこと? もしくは店員さんが立ってる?

パリ わはは! なら逆に座ってる店のほうが珍しいから、そっちに名前つけたほうがいいですよ。「シットダウン割烹」とか。

ナオ はは。店員さんが座ってる店、いい。一之江の「大衆酒場 カネス」は、カウンターの中の煮込み鍋の横に女将さんが座ってましたね。

パリ 最高でしたね。90歳を超えて亡くなる前の年まで座ってたらしいです。東池袋のラーメン「大勝軒」の山岸さんがご存命の時も、大通りに面してリニューアルした店舗の外に椅子出して、ただ座ってたな。

ナオ ただただ、座ってましたか。

パリ ただただ座っているだけで価値のある人。

ナオ 一緒にいるみたいな気持ちになるというか。飛行機のアテンダントさんが着陸するとき座るでしょう。あの時、グッと身近に感じる。この人も一緒の乗り物に乗ってるんだなって。

パリ 座るって本当にすごいですね。

入り口に座っている人の重要性

パリ ところで、よく考えると「割烹」って言葉の意味がぜんぜんわからないので、今調べてみました。そしたらおもしろい! 「食品を割き、煮炊きすること。調理、または料理すること。『割』は包丁で切ること、『烹』は火を使う調理法」。

ナオ 単に「料理」のことなんだ!

パリ 確かに「割烹着」って言いますもんね。

ナオ そうだ。そしたらでも、だいたいの店で割して烹してますよ。

パリ してない方が珍しい。「昨日、肉野菜炒めを割烹してたらさ〜」も、意味として間違ってない。

ナオ 全然大丈夫。するとますます「スタンド割烹」ってなんだよっていう混乱がすごい。さっき話してた「店員が立っている店」説を生かすなら「立って料理する店」。

パリ どこもそうだよ!

ナオ 俺もだよ!

パリ 「マクドナルド」なんて。

ナオ 肉を割いてますからね、美味しいハンバーグにしちゃって。

パリ かなりずばりなスタンド割烹だ。

ナオ 座ってるマクドナルドの店員さん見たことないな。入口に店長が座ってたらおもしろいっすね。

パリ はは、何も手伝わないでね。ニコニコして。

ナオ 新聞広げて読んでたりね。あ、でも、あれか! あのピエロ!

パリ あー、大きいマックにいる! ベンチに座って。

ナオ ね!

パリ あのピエロとカネスの女将さんや大勝軒の山岸さん、意味的に同じだったのか。

ナオ ははは。やっぱり店員が座ってる店はいい店。というわけで、座ってる人がいると説得力が増すということを、これからお店を出す人はぜひ覚えておいてほしいです。

パリ ですね。ぱっと見、時給の無駄なんだけど、不思議と繁盛するから大丈夫。……つーか、今日は何の話でしたっけ?

ナオ あ、連載の内容を振り返る場所でしたね、ここ。

パリ 忘れてた! 次回ですね、そこは。

後編は6月8日更新予定です
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スズキナオ /パリッコ

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