マイノリティだからって許されちゃいけないと思うんです

今回、牧村さんのもとには、前回記事「この欲求、夫が抱いてくれたなら、妄想だけで終わるのに」について、「どうしても心に引っかかっていることがある」という女性からの質問が届きました。「マイノリティだからって許されちゃいけないと思うんです」という質問者さんに対して、牧村さんはなんと答えるのでしょうか。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

めちゃくちゃ楽しみにしている本があります。 七月刊行予定の「よい移民」です。

これはイギリス社会で移民2世・3世として生きる二十一人が経験を語るアンソロジーなのですが、めちゃくちゃ、生きるヒントになると思う。イギリス社会で生きたことのないわたしもまた、「よい移民現象」、もっと適用範囲を広くしていうならば「よいこ現象」というべきようなものをしばしば経験してきたからです。

「よいこ現象」という言葉を、わたしはこういう意味で使っています。

「ある社会で不利な位置に置かれている人が、よいこでいようとすること。しかも、有利な位置にある人の価値観に従順である、という意味で“よいこ”でいようとすること」

例を出しますと、こういうやつですね。

「こんな自分でも雇ってくださっているのだから残業代とか言わず一生懸命働かなくちゃ」
「女は結局男に守ってもらわないと生きていかれないのだから従わなくちゃ」

よいこでいることを個人が選択するのならば、それはその人のサバイバルだと思うのです。けれど、それが、同じカテゴリに分類される他者に対して、抑圧的に働いてしまうとしたら。「よいこでいろよ現象」になってしまうとしたら。

「お前みたいに女装するゲイのせいで俺たちゲイ全体が勘違いされる。やめろ」
「あなたみたいに差別差別ってうるさくいう人のせいで障害者全体が煙たがられるんです。同じ障害者として迷惑です」

よいこ。よいこでいろよという、よいこ。

そうやって生まれる衝突を前にしたとき、わたしは「わるいこ」とされた側にも「よいこ」側にもつかず、一人になって考えるようにしています。だって、ふたつに分断されたくないんだもの。従わされたくないんだもの。隠れたところからコントロールされたくないんだもの……一体誰が、一体誰が、一体何の意図で「よい/悪い」を決めているのかを見通したいんだもの。

にんげんだもの〜!!

今回ご紹介するのは、「マイノリティだからって許されちゃいけないと思うんです」、というご投稿です。ただ、先に言っておくんだけど、「マイノリティだからって許されちゃいけないと思うんです」、この表現の時点でもうつらみを感じる人はたぶん今は読まないほうがいいです。いつも書いてるけど、「一緒に考えていきましょう」スタンスよ。

では、いきます。

今日は。牧村さんの連載をいつも楽しみに読ませていただいています。牧村さんの考え方が好きでいつも励まされています。

ところで、今回どうしてもこのお手紙を書きたくなったのは、そんな牧村さんのこのあいだの記事でどうしても心に引っかかっていることがあり、その心のつっかえがどうしても取れないので質問させていただくことにしました。質問までの文章が長いのですが、すみません。男性と結婚されている女性が、元々女性の方が好きで、女性と交際したい思いが強くなってきているとの話でした。この様な状況の相談はネットであちこちで見かけます。私はずっとこの手の相談に違和感を覚えてきました。(ちなみに私自身、ジェンダーはXですが体は女性で、パートナーも女性です)

牧村さんが例の記事で結婚について詳しい知識をシェアしてくださってとても参考になりありがたかったのですが、私はもっと単純な観点での違和感を覚えました。この例えを話させてください。ある女性が、見た目はそこそこだが内面に好感の持てる男性と交際し、やがて結婚しました。数年が経ち二人が家族として落ち着く関係になった頃、女性は男性とのトキメキのない生活に不満になり、やっぱりあっちのイケメンとデートしたりエッチしたい、と思い、結婚生活を終わらせて自分のときめくステキな男性を探そうか迷っている。この話は一般的な感性からすれば、ただの浮気であり、この女性の誠意と責任感のなさは非難されるのではないでしょうか。私には、前述の記事の方の状況はこれに変わりない様に見えます。セクシャルマイノリティーに関して、よく私たちは「私たちも同じ人間同士として愛し合っている」と平等を唱えますが、マイノリティーとして尊重されるべきことを逆手に取ることもできます。女性の方に圧倒的に魅力を感じることを自覚していながら、それでも「相手が承知したから」といって責任が全て相手のものになるわけではありません。

結婚の選択は二人のものです。もし男女関係ならただの浮気者として扱われるのが、本当は同性が好きだから、というマイノリティー要素が加わることによって正当化されるのはおかしいことではないのかと私は思います。同性であれ異性であれ、長い人生を共にしようと思えば倦怠期だってあるし、それでもお互いにドキドキする関係を保つ努力が要るのは同じことです。彼女は一度彼を(自分が女性に惹かれることを承知で)愛したんですよね?そして結婚を選択した。なのにそれは彼に対して酷い裏切りだと思います。

正直、浮気や破局の理由にマイノリティー要素を使わないでほしいと思います、それは本当は女性が好きだから、ではなく、結婚生活の倦怠期にこの先どうしようか悩んでいる、それだけのことではないのでしょうか。マイノリティーの認知が進む中、過去に、また今でも「無知」によるヘイトや迫害があったかもしれません。しかし将来私たちの様な人たちが認知されて当たり前になる時代に、今度は「経験」によるヘイトが生まれないかと懸念しています。それはそういった裏切りを、「マイノリティーだから」という理由で正当化され傷つけられた人たちが抱くのではないかと私は懸念してしまいます。質問がかなり広くなってしまい申し訳無いのですが、牧村さんはこの点に関してどう思われますか。
(ご投稿に改行のみ加え、全文掲載しました)


ありがとうございます。しかと拝読しました。 二点お伺いしたいことがあります。

(1)なぜ、他者(前回のご投稿者)の人生について語るにあたり、あなたは、ご自分とパートナーの方のセクシュアリティを明らかにしたのですか。

(2)前回の文章は「マイノリティだから尊重されるべき」という話ではありませんでした。

「なぜ現在のような、同居前提・排他的一夫一婦制の結婚制度が敷かれるに至ったか」 「そのような、国民を管理する権力が働いている場に生まれたとしても、その権力が自分に何をさせようとしているのか見抜こうと試みること、その上でどう生きるかを模索することは可能ではないか」

というお話でした。

あなたはなぜこの話を、「マイノリティだから尊重される」という話として読んだのでしょうか。

……って書いたとこまでで、もう、責めてるように思われそうでアレなのですが、あの、責めてませんからね。「あなたのそこに考えるヒントがあるとわたしは思ったんだ」って言ってます。これは「先生怒らないから言ってごらん(後で絶対怒るやつ)」みたいなフリではないつもりなので。ね。

その上で話を進めますよ。

たぶんですが、本当、たぶんのことしか言えないんですが、わたしはあなたじゃないので、わたしから見るとたぶんこうじゃないかなということしか言えないのですが……あなたのモヤモヤの元はたぶん、この辺りではないでしょうか。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

estoynaomiendo 牧村さんの文章、好きです。感じてはいるけれど言葉にして深く考えたことがないテーマを丁寧に語ってくれる。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

nanohanamanjyu 投稿者さんのモヤっと感や主張、わかるなぁ。私の中にもわき起こることがあるから。でもきっと大事なのは、そこからもう一歩踏み込んで、自分は自分の相手と、今後どうするのか、を考え話し合うことだと思う。どこかの誰かの話は置いといて。 https://t.co/dBWgWNd8nc 5ヶ月前 replyretweetfavorite

makimuuuuuu 「お前がよいマイノリティとして振る舞わないからマイノリティ全体が勘違いされる」的な話の話です https://t.co/byxu2rGGbi https://t.co/BxQVi5x330 5ヶ月前 replyretweetfavorite

toe_hiro 「選ぶことは自由だけど、それを強いてしまうと不自由」実に。 https://t.co/AiWaQjCAdW 5ヶ月前 replyretweetfavorite