かつてない「体だけモノマネ」という発想
上半身裸の男が立っている。その体は浅黒く日焼けし、妙に恰幅が良い。
ロバート・秋山竜次である。
そこに軽快なEDM調の曲が流れ始める。秋山は静かにリズムを取りながらカメラ目線のまま何やら“準備”をしている。
「バーン」という音ととともに右手に持ったパネルを自らの顔にあてがう。そのパネルには顔写真が貼られている。
梅宮辰夫だ。
その人の体だけをモノマネするという、かつてない発想の“モノマネ”だった。確かに梅宮辰夫はそんな体をしていたはずだ。
ある時は小沢一郎に、気だるそうに椅子に足を組んで座ってみれば野村克也に、ランタンと斧を持てばC・W・ニコルに、胸だけ隠せばアジャ・コングに……と変幻自在。果ては、埠頭に佇むペリーのような歴史上の人物にもなる。
日焼けし恰幅の良い有名人のみならず、実際にはそうでない人でも、なんとなくそうだったんじゃないかと思えてしまうところがスゴい。
ついにはTシャツの裏地に梅宮辰夫の顔をプリント。顔パネルがなくても、Tシャツをめくり上げると体モノマネができるようにまで“進化”していった。
これが、ロバート・秋山の「体モノマネ」である。
テレビで生き残るために必要な次の一手
ロバートといえば、コント師としてエリートというイメージが強い。
1999年に結成され、そのわずか2年後の2001年には『はねるのトびら』(フジテレビ)のレギュラーに抜擢。その中で秋山はエースのひとりとして番組を引っ張っていた。さらに2011年には『キングオブコント』(TBS)で“完全優勝”(1stステージ・2ndステージともに1位。しかもそのふたつのネタがその日の最多得点1位、2位も独占)。順風満帆と言えた。
しかし、その頃の秋山は悩みの中にいた。ひとたびコントに入れば無敵だが、通常のバラエティ番組で自分たちのコントを見せる時間はない。ショートコントをやってみても、空気ができていないから上手くいかない。「だから、一発ギャグみたいなことも考えたんですけど、それも上手くいかない。実は、そこが、芸人として自分の一番弱いところ」【※1】だと感じていた。そんな中、『はねるのトびら』も終わろうとしていた。テレビで生き残るためには次の一手が必要だった。
「なんだ、その大御所みたいな体は! 年齢と体が合ってないんだよ!」
劇場の楽屋で着替えていると、秋山は先輩芸人「ニブンノゴ!」宮地謙典からよくイジられていた。それがずっと頭の中にあった。あるとき、大阪の番組に呼ばれた際、トリオネタではなく、それぞれで何かピンネタをやってほしいというオファーがあった。そのときに、もしかしたらこのアンバランスな体がネタとして成立するかもしれないと、スタッフに「梅宮辰夫の顔パネル」を発注してみた。すると、当日現場に行って驚いた。顔に当ててみるとサイズから表情までピッタリだったのだ。
「あと1センチ大きくても、小さくても、色がもう少し黒くても、白くても、顔と体が合わずにおもしろくない。それが本当にピッタリだった。ネタの内容をお伝えしたわけでもないのに」【※1】
神の采配だった。
梅宮辰夫とロバート秋山
ところで、梅宮辰夫と秋山の間には奇妙な縁があった。梅宮は1958年、東映の第5期ニューフェイスとしてデビュー。後輩の波多伸二の代役として出演した『殺られてたまるか』をきっかけに共演の三田佳子と「ゴールデン・コンビ」と呼ばれるようになり注目を浴びた。『夜の青春』シリーズ主演を経て1968年から始まったのが『不良番長』シリーズだった。
周りは血気盛んな後輩たちばかり。夜通し呑み撮影に遅刻するのは日常茶飯事だった。そこで梅宮は「撮影所の門のところに、バットを持って立っていましたよ。亡くなった安岡力也のケツとか、何度も叩いた」【※2】という。まさに主人公のキャラを地で行く“不良番長”だ。その「不良番長」シリーズで、梅宮と“共演”をしているのが、実は秋山の父なのだ。
父・幸重は19歳で俳優を目指して上京。俳優養成所を経て“大部屋俳優”としていくつかの映画に出演した。その中のひとつが『不良番長 突撃一番』(1971年)だった。他の作品同様、名もなきエキストラながら梅宮と絡むシーンに出演。「最高の気分だった」【※3】と振り返っている。だから秋山の父にとって、梅宮辰夫は“神”のような存在だった。
それから約40年後、今度は息子である秋山がその“神”をイジるように体モノマネという形で“共演”しているのだ。秋山は梅宮にこういうネタを顔写真を使ってやっていいかと尋ねると梅宮はこう答えた。
「後輩は先輩を利用するもんだよ。遠慮なくやってくれ」【※3】
そしてこうも言った。
「俺は何がおもしろいんだかわかんないんだけど(笑)、やるんだったら、中途半端じゃなく、突きつめろよ」【※3】
その結果、秋山は芸人として大きな武器を手に入れたのだ。
ジャパニーズスター・梅宮辰夫を世界へ
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