限界を超えて
お金を使え
2019年の5月4日早朝、僕が出資する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)の小型観測ロケット「MOMO」(モモ)の3号機が、北海道大樹町から打ち上げられた。
ロケットは、高度100キロの宇宙空間に到達した。
民間単独のロケットとしては、国内初となる快挙だった。その日は、夜遅くまで仲間たちと祝杯をあげた。
多くの方々からお祝いの言葉をもらった。ニュース番組でもトップで取り上げてもらった。柴山昌彦文部科学大臣からも応援のコメントが発表された。
すべてが本当に、ありがたいことだった。
思えば、長い道のりだった。宇宙事業へ関わり始めたのは2004年からだ。
まず海外からのエンジン購入を計画したが、いろいろあって頓挫。ISTでの自前のロケット開発に移行した。専門家を集めたものの、ロケットづくりの実質的なノウハウはほとんどない、まさに手探りからのスタートだった。
こつこつ開発を進めていくなか、ライブドア事件が起きた。
僕は逮捕され、東京・小菅の東京拘置所に勾留された。刑務所に収監された後は、ロケットの開発資金を少しでも稼ぐために、メルマガの原稿を書き続けた。
収監中の収入は限られていた。僕のマネージメント会社からの研究開発委託という形で、ISTでの宇宙事業を継続した。
持ち出し状態が続き、莫大なお金が失われる日々だった。
出所後は、自由に稼げる身となったが、ISTの財務状況は常に厳しかった。
僕の会社からの出資のほか、第三者割当増資で、資金を補填した。
クラウドファンディング、他企業からの融資、補助金の申請、資金調達に使える手段は何でも使い倒した。なりふりなんて、かまっていられなかった。
それでも幾度となく、資金難にぶち当たった。
だいぶ前から、ISTは僕の収入だけで支えられる状況ではなくなっていた。
ビジネスマンとして考えれば、宇宙事業はとっくに、損切りの対象だっただろう。
それでも僕は、諦めなかった。挑戦を止めなかった。
挑戦のない人生に、意味はない。
コストパフォーマンスのいい衛星打ち上げのビジネスは、世界的に需要が高まっている。現状、ロケット打ち上げには10億円単位の費用がかさむ。コストを少しでも下げられる民間企業の技術向上に、かけられた期待は高い。現に海外のロケットベンチャーの会社は、時価総額が1000億を超えているのだ。
今回の打ち上げ成功でISTも注目度が上がり、大きな投資が得られるかもしれない。資金力さえつけば、計画中の軌道投入機ZEROは、遠くないうちに完成する。
ZEROが稼働するようになったとき、ISTはロケットビジネスの分野で、イーロン・マスクの率いるSpaceXと同じ舞台に立てるのだ。
それはもう、夢ではない。
15年もの歳月をかけ、何度もトラブルや資金悪化を経ながら、ついに宇宙へ行けた。
不可能だとも言われた、最初のデスバレーを超えたのだ。
ここから僕たちに追いつける競合会社は、国内にはほとんどいないだろう。
夢を夢で終わらせないためには、現実と真剣に向き合い、対策を考え抜くこと。そして、挑戦を止めない意志が大切だ。
夢をうち砕くのは、現実かもしれない。でも、夢中でやり続ける意志を持っていれば、優れた人材やお金、縁が集まり、現実を夢以上のステージに高められる。