〈「いだてん」第20回「恋の片道切符」あらすじ〉
治五郎(役所広司)の手紙によってマラソンがオリンピックに復活し、大正9年、四三(中村勘九郎)は十種競技に挑む野口(永山絢斗)ら15人の選手たちとアントワープへ旅立つ。現地には、欧州で銀行家として働く三島弥彦(生田斗真)が激励にかけつけ、四三と弥彦はたった二人だったストックホルム大会からの日本の成長を実感する。四三は後輩ランナーたちと激走を繰り広げる。しかし、16位とまたもや惨敗。帰国後、四三不在の中で野口が各選手の奮闘を伝えるも記者たちからの激しい批判をうける…。(公式HPより)
いよいよアントワープの檜舞台、四三たちにとっては8年ぶりとなる晴れのオリンピックだ。
その本番がいかに描かれるかと思ったら、いざスタジアムに入場というところで画面はフェイドアウトし「3ヶ月後」とテロップが出る。
3ヶ月後、オリンピックの帰朝報告会。どうやら今回は、視聴者まで「報告」という形で事後的にオリンピックを体験することになるらしい。ところが、そこに金栗の姿はない。スヤと実次は、わざわざ熊本からこの報告会をききに出てきたのに、あてがはずれた形だ。一方、入場してきた野口源三郎をはじめ選手たちの表情には、どうも晴れがましいところがない。どうやら結果は思わしくなさそうだ。
その、結果。アメリカ在住であった熊谷一弥がシングル、ダブルスで見事銀メダルをとった。そこまではよい。野口は気を持たせるように、自身の10種競技の名を総て並べる。「100、400,砲丸、幅跳、走り高跳、円盤、槍、棒高跳、障害、1500」。しかし、次々と繰り出される競技名の仰々しさとは対照的に、順位は最下位。肋木のそばでそれをきいていた二階堂トクヨは、複雑な表情で目を伏せる。その理由を、見る者は知っている。トクヨは野口に恋をしている。野口の投げる槍はあやまたずトクヨを射貫いた。しかし彼の槍は、世界に届かなかった。
報告は続く。失格、予選敗退の連続。場内は不穏な空気に包まれる。そしていよいよ金メダル確実と言われていたマラソン。出場選手たちの必死の努力を野口たちは切々と訴える。金栗はいっとき、5位にまで順位をあげた。しかし途中で失速し、結果は16位、茂木、八島、三浦の各選手の成績もふるわない。「この非国民が!」と記者から野次が飛び、若い八島は激昂する。「あんたに何がわかるんだよ!」
スヤの声はスヤではない
八島が記者とつかみ合いになり、場内騒然とする中、トクヨが中央に歩み出て手を挙げ、よく通る声でぴしゃりと言う。 「嘉納会長の会見はいつ開かれますか!」
それは帰国後改めて…と言いかけて野口は、声の主がトクヨであったことに気づく。「出たな」。 野口にとって、トクヨは「高師のじゃじゃ馬娘」であり、彼女の行為はさらなる詰問にしか見えなかっただろう。しかし、トクヨが恋する相手に「近くにいると裏腹な態度をとってしまう」ことを、視聴者は知っている。そして彼女の声のおかげで、場内は再び静まった。野口は、少し助けられた。
「今回の惨敗、会長の責任をと言う声もあります。特に、一度は廃止が決まっていたにもかかわらず、日本がメダルを狙えると言う理由で、正式種目に加えてもらったマラソンにおいて、金栗選手は無様に負けた。言ってみれば、国際舞台で赤っ恥をかいたわけです。この責任を誰が取るおつもりですか!?」。 気づけばトクヨは、野口の眼前まで歩を進めている。裏腹な態度。その舌鋒、槍の如し。しかし彼女はその矛先を、野口に直接向けることはできない。代わりに、金栗が槍玉に上がろうとしている。
そこに突然あがったスヤの声が、いつもの声ではない。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。