書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
歴史を重ねるごとに高まる敷居
大衆酒場とはその名の通り、我々一般庶民がなんの気がねもなくお酒を飲める店。が、営業年数を重ねるにつれ、どうしても威厳や風格が出てきてしまうのは、酒場文化の長い歴史を考えれば当然のことでしょう。いわゆる、老舗酒場というやつですね。
そのうえ例えば、
・飲んできた客おことわり
・団体客おことわり
・大声でしゃべるの禁止
・店内写真撮影禁止
・というか店内でスマホをいじるのも禁止
・以上が守れない場合、即退店
長年の歴史とお店の雰囲気を守る方針であるならばしかたないながらも、こんな暗黙のルールがあることを聞いたら、人によってはその敷居が、鴨居の高さくらいに感じてしまうかもしれません。
実は、上記すべての条件を満たすお店が実際に存在します。事情が事情なので店名は伏せますが、東京都台東区にある、とある老舗酒場。
気になっていながらもこれまで未訪だったのですが、先日仕事で近くに行くことがあり、絶好の機会とばかり訪れてみたところ、これがものすご〜く良い酒体験だったのでした。
憧れの老舗酒場へ
5月末、よく晴れて暑いくらいの平日午後3時すぎ。お店の営業が15~20時ということで、一見の僕が初めて来店するには良いタイミングだったかもしれません。自分の住む西武線沿線とは違う、下町独特の雰囲気たっぷりな街を散策しつつ、小さな街道に突き当たったあたりにポツンとお店はありました。古い古い平屋の大衆酒場。紺色に白抜きで店名が書かれたのれんが風に揺られている様が、すでに神々しい。店内はしんと静まり返り、外から様子を伺うことはできません。少しの緊張感とともに木製の引戸に手をかけ、カラリと開けて入店。
すぐに白い作業着姿の大将と目が合い、小さく、しかしはっきりと「ひとりです」と告げると、無事、真ん中が切れた変則コの字カウンターの一席に通してもらうことができました。
何はともあれ、一杯飲みましょう。飲み慣れたものがあればそれがいい。メニューに目をやると「焼酎ハイボール」がある。まさか「酎ハイ」などと省略したりせず、これまたはっきりと注文します。グラスに氷とカットレモンを入れ、保冷庫にある大きなビンから焼酎(銘柄は店内にポスターのあるキンミヤでしょうか)を入れ、アズマ炭酸水のビン、それからサービスであろう白菜のお漬物とともに運んできてくれた大将。目の前で、グラスの7分目くらいまで自ら炭酸を注いでくれました。その一杯の存在感の、なんと清涼であることよ。
次の瞬間、僕が足元に直置きしていたカバンに目をやり「お兄さん、カウンターの下にフックがあるからそこにかけな」との助言が。「あ、気づきませんでした。ありがとうございます」と言いながらカバンをかけていると、「もうちょっとこっちに来たほうがいいよ」と、フックの前の位置に椅子をずらしていいという心づかいまで。
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