自らの利益をひたすら追求し、適応能力を高められる個体の方が有利となり、より多くの子孫を残すことができる──。これは自然淘汰の基本原理だ。餌を取り合うときには、手段を選ばずに奪い取る方がよさそうである。
ところが、同種の動物同士の争いでは、激しい攻撃が繰り広げられることはあまりない。ある程度の小競り合いや「儀式的な威嚇」によって決着がつくことが多い。劣った個体は立ち去り、優位にある個体もそれを深追いはしない。こうした行動はなぜ生まれるか。
生物学者のメイナード・スミスとプライスは1973年の論文で、経済学を主舞台として検討されてきたゲーム理論を、こうした生物進化の研究に導入した。
餌や交尾相手をめぐる闘争において、相手が強かろうと弱かろうと倒すべく攻撃を加えるタカ戦略と、儀式的な威嚇をするだけで、相手の攻撃がエスカレートすると、逃げ出してゆくハト戦略がある。
スミスらは、自然淘汰や突然変異などを通じ、同種の集団の中でいかなる戦略が採用される状態が安定的であるかを研究し、その安定的な状態を「進化的に安定な戦略」(ESS)と呼んだ。
この「進化的に安定な戦略」とはどういうことなのか説明しよう。ここで登場するのは、タカ戦略とハト戦略というゲームだ。
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