司法取引、保育所選考など日本でも導入 ゲーム理論で社会問題を解決

ゲーム理論は社会の仕組みをデザインするのに重宝されており、欧米では社会制度などにも応用されている。他方、日本でも、ゲーム理論を用いた仕組みが着実に増えてきているようだ。

 ゲーム理論はすでに社会でも応用されている。例えば「課徴金減免制度」は、囚人のジレンマ(『なるほど分かった!囚人のジレンマ 使える「戦略思考」の基本のき』参照)を応用した制度の一つだ。リーニエンシー(leniency、寛容な)制度とも呼ばれ、事業者が自ら関与したカルテルや入札談合について、違反内容を公正取引委員会に自主的に報告、つまりは「自白」した場合、課徴金が減免される制度である。最近の事例では、今年3月に発覚したリニア談合事件がある。この談合事件では、大林組と清水建設が課徴金減免制度を利用し、違反を自主申告した。

リニア談合事件で引責辞任した大林組の白石達前社長。同社は課徴金減免制度に基づき自主申告した。Photo:つのだよしお/アフロ

 この制度は“抜け駆け”が早いほど減額率が大きくなる仕組みで、日本の場合、公正取引委員会の調査前に最も早く申請すると、課徴金が100%減額される。米国で1978年に導入されて以来、世界的に導入が進んでおり、日本では2006年に導入された。毎年一定の件数が報告されており(下表参照)、16年のコンデンサーの価格カルテル事件では独占禁止法違反と認定された7社のうち、課徴金減免制度を使った2社を除く5社に、計約67億円の課徴金が科されるなど、大きな成果を挙げている。


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 一方、刑事罰の「司法取引」は囚人のジレンマのゲーム構造そのものだ。日本版の司法取引は今年6月に始まったばかりだが、7月にはタイの発電所建設事業をめぐって現地公務員に賄賂を渡した罪で、三菱日立パワーシステムズが司法取引に合意し、第1号案件となった。「司法取引といえば詐欺や強盗などの印象があるかもしれないが、経済的な取引で莫大な金額が動く犯罪への影響がより大きい」と拓殖大学の丹野忠晋教授は話す。

 司法取引には、あらゆる罪で自白すればするほど刑が軽くなるケースと、共犯者の犯罪事実を暴くことで刑が軽減・免除されるケースの2種類があるが、日本が導入した司法取引は後者に当たり、加えて経済犯罪や銃器・薬物犯罪に限り適用される。

 こうした司法取引はなぜ力を発揮するのか。下表の利得表で確認してみよう。


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 まずは、司法取引がない場合だ。共犯者が自白しないならば2人とも自白せず、逆に、共犯者が自白すると思えば自分も自白する。よって、互いに黙秘する場合と互いに自白する場合の二つがナッシュ均衡になる。一方、「司法取引に応じて自白すれば罪が軽くなる」という裏切りへのインセンティブがあると、自白したときの利得がマイナス1から2になる。そのため二つあったナッシュ均衡が「2人とも自白する」のみになる。司法取引によって自白が強く後押しされるわけだ。

 こうした囚人のジレンマは、ほかにも社会的に応用できる場面がありそうだ。「いじめ問題」にも応用可能だと大阪大学大学院経済学研究科の安田洋祐准教授は言う。

 いじめられている人の周囲にA君とB君がいたとする。このとき、「立ち向かう」「傍観者」という二つの行動ができる。2人で立ち向かえば利得はそれぞれ2だが、A君だけだと、次の標的になる可能性があるのでマイナス10になってしまう。どちらも傍観者の場合、それぞれ0とすると、2人とも「立ち向かう」または「傍観者」という二つのナッシュ均衡が生まれ、結果的に傍観者を選びがちになる。「いじめをなくすには、『立ち向かう』人を周囲がサポートすること。傍観者に『自分が立ち向かったときも支えてもらえる』という期待を生じさせることで、悪い均衡はいい均衡に変えられる」(安田氏)。

納得感のあるマッチングが
瞬時にできる

 ゲーム理論のうち、社会的応用が特に進んでいる分野は「マッチング」だ。マッチングのアルゴリズムのうち、最もポピュラーなものに「ゲール=シャプレー・アルゴリズム」(GSアルゴリズム)がある。このアルゴリズムの提唱者であるシャプレーは、12年にノーベル経済学賞を受賞している。

 GSアルゴリズムは、安定的なマッチング結果を生み出すフレームワークで、これを使うとマッチング後に「そちらの組み合わせの方がよかった」と“抜け駆け”する人がいなくなる仕組みなのだ。

 このアルゴリズムを利用した例の一つに、日本でも04年から導入されている「医師臨床研修マッチングプログラム」(いわゆる研修医マッチング)という制度がある。

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