業界トップだった企業が、技術革新(イノベーション)についていけず、新規参入してきたライバルに取って代わられる。クレイトン・クリステンセン・ハーバード・ビジネス・スクール教授の言う「イノベーターのジレンマ」とは、そういう経験則と、そこで既存企業が直面する困難な決断を指す。「進むも地獄、退くも地獄」という悩ましい2択問題である。
例えば、旧世代の携帯電話は独自の発展を遂げていたが、アップルやサムスンのスマートフォンに駆逐されてしまった。デジタルカメラや携帯音楽プレーヤーも、スマホに代替されるようになった。
ジレンマの核心にあるのは、既存製品と新製品の共食い(カニバリゼーション)である。優良企業は既にヒット商品と多くの顧客を手中にしているから、わざわざ新製品を投入して同じ顧客を奪い合うインセンティブは小さい。
一方、新参企業には失うものなど何もない。だからイノベーションに積極的になれる(というか他にできることもない)。
そうはいっても、ゲーム理論的な観点から状況を冷静に見詰め直すと、むしろ既存企業の方こそ積極的に先制攻撃に踏み切るべきである。
もしも自社のリードが盤石で、未来永劫絶対無敵のチャンピオンでいられる自信があるならいいが、現実には企業も技術も「盛者必衰」が世の常だ。
新参のライバルなり外国企業なりがイノベーションと新規参入に成功してしまえば、既存企業の独占利益は失われるだろう。顧客を奪われるだけでなく、競争圧力によって価格も下落してしまい、営業利益は半減する。
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