気鋭の若手学者がゲーム理論で読み解く これからの経済キーワード

「働き方改革」や「仮想通貨(ビットコイン)」。そんなこれからの経済社会を象徴するキーワードは、ゲーム理論でどう解釈できるのか。大阪大学の安田洋祐准教授が読み解く。

やすだ・ようすけ/1980年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。米プリンストン大学でPh.D.取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て2014年より現職。専門はゲーム理論。主な研究テーマは現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン。

働き方改革

 ゲーム理論で有名なのは「囚人のジレンマ」(『なるほど分かった!囚人のジレンマ 使える「戦略思考」の基本のき』参照)ですが、私が講演や講義などで説いているのはコーディネーション・ゲームと呼ばれる考え方の有用性です。この視点から昨今話題の「働き方改革」を読み解いてみましょう。

 今どき残業を一切断れないとか、育児休暇や有給休暇を取れない職場は少ないと思いますが、では個々の社員がきちんと働き方改革と整合的な選択肢を取れるかといえば、そうはなりません。ポイントは定時退社かサービス残業かの選択肢があるとき、起こり得る結果が二つあることです(下表参照)。

 一つは全員が定時退社する場合。「ホワイト企業」の職場をイメージすると、自分一人だけが働いても評価されず、サービス残業をする意味はほとんどありません。周囲が時間内に仕事を終える職場ではむしろ能率が悪いとして査定が下がることが考えられ、積極的にサービス残業をする意味がない「ホワイトな均衡」が成立します。

 もう一つはできれば回避したい「ブラックな均衡」で、これは全員がサービス残業をやっているような状態です。日本の多くの組織がこれに陥り、長らく抜け出せませんでした。というのも、他の人がサービス残業をしている状況で自分だけが早めに仕事を切り上げると、人間関係がギクシャクしたり昇進が遅れたり、何らかの不利益を被る可能性が高いからです。

 こう考えるのは自分だけでなく他の社員も同様です。よって誰一人、ブラック均衡から抜けようとしません。全員「いっせいのせ」でホワイト均衡に移ればハッピーになれると分かっていながらできないのが興味深いし、根が深いところです。ですが、うまく参加者の行動をコーディネートして、予想や期待を変えると「悪い均衡」から「良い均衡」に移れる可能性が出てくるのです。

 実際にどういった企業で働き方改革が成功しているのかというと、一つはそれほど規模の大きくないベンチャー企業です。

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