壊れたロボット」のような身体と対峙しながら—二十歳の自閉症作家・東田直樹インタビュー

今月から連載開始となった東田直樹さんの「跳びはねる思考」。新連載を記念して、重度自閉症の当事者でもある東田さんにインタビューをさせて頂きました。
自閉症は、生まれつきの脳の機能障害によるもので、コミュニケーションにさまざまな難しさが生じます。自閉症スペクトラム(自閉症と、その近縁の障害)の人を含めると「100人に1人」ともいわれる一方で、一般の人には理解されにくい障害でもあります。
自閉症者の内側で起きていることを説明したベストセラー『自閉症の僕が跳びはねる理由 』の作者でもある東田さん。インタビュー中にも、その行動からは想像できない、理知的で豊かな内面が垣間見られました。
(参考:『自閉症の基本障害の理解とその支援・対応法』明治図書出版)

「必要とされること」が、人にとっての幸せ

—東田さんは、文字盤を指差しながら言葉を発していく「文字盤ポインティング」という方法で会話されていますが、どうしてその方法であれば会話ができるのでしょうか?

東田 僕は、話そうとしたときに頭の中が真っ白になります。そのために、言いたかった言葉を思い出すきっかけとして、文字盤を使っています。おわり。


東田さんがポインティングに利用する文字盤。アルファベットを指差していくことで、伝えたい言葉を見失わずに済むのだという。伝えたかったことを言い終えると、その合図に「おわり」という言葉が入る。

(次の質問をしようとしたとき、東田さんの口から「ニコン、ニコン」という声が出る。取材用カメラに「ニコン」と書いていたため。)

—そういった声は、どうして出てくるのですか?

東田 つい、出てしまいます。声は、呼吸するように僕の口から出てしまうのです。自分の居場所がどこにあるのかわからないのと同じで、どうすればいいのかを自分で決められません。僕は、まるで壊れたロボットの中にいて、操縦に困っている人のようなのです。おわり。

—今、東田さんは「居場所がない」とおっしゃいましたが、そう感じて悩んでいる人は、普通の人の中にもたくさんいるかと思います。東田さんの考える居場所とは、どういったものでしょうか。

東田 自分らしく生きていられるところだと思います。おわり。

—東田さんは、どういうときに、自分らしく生きていると感じられますか。

東田 僕は、自分から人と関われませんが、ひとりが好きなわけではありません。僕は、ありのままの自分でいられ、気持ちが穏やかな状態でいられることを望んでいます。おわり。

—東田さんのブログには、同じ障害を持つ方のご家族を中心に、たくさんのコメントが寄せられていますよね。それについては、どう感じていらっしゃいますか。

東田 コメントをいただけることは、とても嬉しいです。僕は、必要とされることが人にとっての幸せだと考えています。そのために、人は人の役に立ちたいのです。ひとりが好きな人はいないと思います。ただ、ひとりが楽なだけでしょう。おわり。


(話し終えると、東田さんは立ち上がり、部屋の外に出て行ってしまった。母親の美紀さんによると、ポインティングは「誰から見ても、それが東田さん本人の言葉である」とわかるようにするためのもので、本人にとってはすごく疲れるらしい、とのこと。
普段の意思疎通はポインティングではなく、「相手の手のひらに平仮名を指で書く」という形で行い、原稿作成にはパソコンを使っているそう。しばらく待つと、東田さんは戻って着席してくれた。)

点在している時間感覚を、「いつものスケジュール」で結びつける

—東田さんは、「ビッグイシュー日本版」で3年以上エッセイの連載を続けられていますよね。その中で、ご自身に何か変化は生まれましたか?

東田 最初は、自分のことをわかってもらいたくて書いていましたが、だんだんと僕の悩みは普通の人にも共感してもらえることだと気づいたので、特に自閉症ということにこだわりなく書けるようになりました。おわり。

(ここで何度か、東田さんの口から「4時、洗濯物入れる」と言葉が出る。東田さんは立ち上がり、2階に干してある洗濯物を取り込みに行った。東田さんの時間感覚は「記憶が点のようで、つながっていない」、「永遠に当たらない神経衰弱をしているよう」なのだという。そして、そのぶん時計を頼りにしているのか、決まった時間に決まった行動をすることに対して強い強迫感があるそうだ。洗濯物を取り入れた東田さんは、台所でお米をとぎ、流し台のお皿を丁寧に並べると、もう一度席に着いた。)

—今、お皿を並べていたのは、どうしてですか?

東田 僕は、物が決まった位置にあると、落ち着きます。おわり。

—では、さきほど部屋を出たり入ったりされていたのも、落ち着くからでしょうか。じっとしていることは東田さんにとって、難しいのですか。

東田 そうです。僕にとっては、動いているほうが自然で、落ち着ける状態なのです。おわり。

(次に東田さんは席から立ち上がり、床に寝転がってしまった。自閉症の人は、このような行動によって「嫌なのかな」「やる気がないのかな」と誤解されてしまうのだという。東田さんは、しばらくすると起き上がり、もう一度着席してくれた。)

—今、ここにもう一度座ることは、大変でしたか?

東田 そう、大変でした。僕は行動を自分の意志でコントロールするのが難しいのです。そのために、気持ちに折り合いをつける必要があります。だから、時間がかかるのです。おわり。

「ひとりの人間」として、自分の考えを伝えたい

—東田さんにとって「文章を書く」というのは、どういうことですか?

東田 僕が文章を書くのは、自分の思いを人に伝えるということです。おわり。

—今回、cakesの読者さんには、どんなことを伝えていきたいですか?

東田 自閉症という障害を抱えていますが、僕はひとりの人間です。僕たちは、普通の人に比べて、すこし変わっているところもありますが、みんなと同じように色々なことを感じています。僕個人のものの見方や考え方を、知ってもらいたいと思っています。おわり。

—東田さんは絵本の出版もたくさんされていますが、絵本を書くときはどういうことを考えて書いていましたか?

東田 主人公が親しみやすく、みんなが自分のことのように、感じられる物語を書いています。僕は、日常のひとコマの中にこそ、幸せがあると思っています。おわり。

—絵本の執筆は、これからも続けていきたいと考えていらっしゃいますか。

東田 できれば書いていきたいです。僕は、自分の夢を作品に込めているのです。

—東田さんの「夢」とは、どういったことでしょうか。

東田 僕はみなさんに自分の幸せに気づいてほしいと願っています。人はつらいことや悲しいことがあると、自分の思いで心がいっぱいになり、他の考え方ができなくなってしまいます。色々な見方をすることで、人は自分がそれほど不幸ではないことに気がつくのではないでしょうか。おわり。

—どうもありがとうございました。連載、楽しみにしていますね。


本連載をまとめた書籍『跳びはねる思考』もお楽しみください。

跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること
跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること
                                ©相澤心也

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この連載について

跳びはねる思考—22歳の自閉症作家が見た世界

東田直樹

「僕は、まるで壊れたロボットの中にいて、操縦に困っている人のようなのです。」 会話ができないもどかしさや意に沿わない行動をする身体を抱え、だからこそ、一語一語を大切につづってきた重度自閉症の作家・東田直樹。 小学生の頃から絵本...もっと読む

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danjuuroo 自閉症作家・東田直樹インタビュー 「(誰かに)必要とされることが人にとっての幸せだと考えています」 「僕は、まるで壊れたロボットの中にいて、  操縦に困っている人のようなのです」 https://t.co/nDvyUwyy7h 6ヶ月前 replyretweetfavorite

aykaurs @gouranga_ @hiromi_s156東田さん「僕はみなさんに自分の幸せに気づいてほしいと願っています。(中略)色々な見方をすることで、人は自分がそれほど不幸ではないことに気がつくのではないでしょうか。」東田直樹さん記事引用⇒https://t.co/kVpMTDTx20 9ヶ月前 replyretweetfavorite

hotsuma @gestaltgeseltz 例の件はいくつか記事を見ていて ふだんのコミュニケーションを実演されたら良いのではないかと思いました "普段の意思疎通はポインティングではなく、(略)原稿作成にはパソコンを使っているそう。" https://t.co/YnRhWmdpxG 約1年前 replyretweetfavorite

siica_you あした読む https://t.co/tV9Ptk8WGU 1年以上前 replyretweetfavorite