言葉が豊かになると、心がおだやかになる
ぼくのクリニックには、「表情ポスター」が貼ってあります。いろいろな顔の表情が描かれていて、この表情のときはこういう気分だというのを子どもたちに知ってもらうためのものです。
「ムカつく」とよく言う小学生に「それは『くやしい』っていう感情だね」「それは『がっかり』という感情だ」と言ったときも、ぼくは表情ポスターを彼に見てもらいながら、「今日の『ムカつく』はどれの気分だい?」と聞いたのです。
イライラして怒っている、仕返ししたいと思っている、くやしい、がっかり、ブチキレるくらいものすごく怒っている……怒りや不満の感情にしても、いろいろな表情があることがわかると、すべてを「ムカつく」で済ませようとは思わなくなります。
自分のそのときの感情を的確にあらわす言葉が増えていくと、子どもでもおだやかになっていきます。
子どもがかんしゃくを起こすのは、感情を伝えたいのにそれをうまく伝えられない、言葉で表現できないというもどかしさもあるのだと思います。
言葉という道具をまだもたない赤ちゃんは、暑いのも、眠いのも、お腹がすいたのも、オムツが気持ち悪いのも、すべて泣くことでしか伝えられません。そこから少しずつ成長して、泣くよりももっと確実な意思の伝え方を学習していきます。
人間にとって、言葉を獲得することは成長の証し。伝えたいことを簡単に伝えられる大事な道具なのです。
だから言葉が豊かになると、心も落ちついておだやかになるのです。