第一印象なんてあてにならない。
第一印象は悪かったけど、話してみたらすごくいい人だった……ということが今までに何度もあった。山小屋でも、第一印象で「この人とは合わなそうだな~」と感じたスタッフと、下山しても遊ぶほど仲のいい友達になったことがある。
だから私は、第一印象を疑うようにしている。たとえ印象が悪かったとしても、私の感じ方なんてあてにならないぞ、と。
気難しそう? 第一印象がよくなかった新人スタッフ
あっくんというスタッフがいる。私より年上だけど、後輩だ。
今でこそ仲がいいけど、彼の第一印象はよくなかった。
私と夫がふたりで小さな山小屋を任されていたときのこと。近隣に少し大きな山小屋があり、そこの新人スタッフはバイト初日、必ず私のいる山小屋を通る。その際に、夫と私に自己紹介をすることになっていた。支配人があらかじめそう伝達しているのだ。
その日、上山(じょうざん。仕事のために山小屋に行くこと)する新人スタッフは2名いた。ふたりとも男子スタッフで、ひとりはにこやかに「はじめまして、○○です! よろしくお願いします!!」と挨拶した。
しかし、もうひとりの男子スタッフは、ボソっと無愛想に何かつぶやいただけ。たぶん名乗ったのだろうけど、まったく聞き取れなかったし、目も合わなかった。それがあっくんだ。
私は内心、「この子、気難しそうだな。ちゃんと仕事教えられるかな」と思った(そのときは年下だと思っていた)。
近隣の山小屋は同じ系列で、そこのスタッフが私のいる山小屋を手伝いに来る。うちの山小屋の仕事は私が教えるのだけど、たまにすごく教えにくいタイプもいるから(斜に構えてる子とか)、つい身構えてしまった。
私は初対面の人に対して、特に感想を抱かないことが多い。ほとんどの人のことを「別にふつう」と感じるし、第一印象なんてすぐに忘れてしまう。
このときのように、はっきりと「印象がよくない」と感じるのは、私にとってめずらしいことだった。
あっくんとの初対面から数日後、食品衛生管理者講習に参加するため下山した。一緒に講習を受けるのは、スタッフ仲間のカンジだ。
講習の会場に向かう車の中で、カンジが「そういえば、鈴木さん(あっくんのこと)が俺らより年上って知ってた?」と言う。
「マジで?年下かと思った!」
カンジとあっくんは同じ山小屋だけど、私は違う山小屋にいるから、情報伝達のスピードが遅いのだ。
カンジは言う。
「この前、音楽の話してたとき、鈴木さんが『ロック聴く人いないんですか?』って言って」
カンジはそのとき、「あ、俺けっこう聴きますよ」と言ったそうだ。しかし、お互いに聴いているバンド名を挙げると、好きなジャンルがかぶっていなかったという。ロックと言ってもいろいろあるから、そういうことはあるだろう。
「鈴木さんがさ、あるバンドの名前出して。俺が『知ってるけど聴いてない』って言ったら、『○○を聴いてないなんてもったいない』って言われたわ」
「うわ、鈴木さんって超めんどくさそう!」
私は反射的に眉をしかめて言った。第一印象が悪かったことと相まって、ネガティブなイメージが色濃くなる。
カンジは、私のリアクションにちょっと慌てたようだ。ネタで話したのに、私が嫌悪感を示したからだろう。
「いやいや、あの人人見知りなだけで、たぶんええ人やで」と笑いながら言った。
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