市場にライバルたちがひしめき合う中、互いの出方をうかがいながら自社の戦略を決する──。ビジネスはこのようなシーンの連続だ。これはまさに、複数の主体の意思決定に関わる問題を扱うゲーム理論の考え方が活躍するところ。ここでは実際の企業の事例からその肝をひもとくことで、ゲーム理論的な思考パターンの理解を深めたい。
まず、今をときめくフリーマーケットアプリ最大手、メルカリの事例から考察してみよう。ここでキーワードとなるのは「インセンティブ(動機付け)」である。
ネットオークションやフリマなどの個人間売買は同じ相手とは一回限りの取引が多く、今の相手から信頼を得ようとのインセンティブが働きにくい。
だが、取引相手からの評価が公表されれば、人々は自分の評価が悪くならないよう誠実な行動を取ろうとする。この評価を通じインセンティブを与えることがうまく機能するためには、正しい評価がなされることが重要だ。
下図のネットオークションサイトAの仕組みでは、取引に満足していなくても低い評価を付けると報復で低い評価を付け返されることを恐れ、高評価を付けて事なきを得ることが考えられる。
このように評価の信頼性が下がると取引が円滑に進まなくなる可能性も出てきてしまうが、メルカリはこの点に工夫が見られる。
まず取引が成立したら売り手と買い手は必ず相手を評価しなければならず、両者が評価をしないと決済は完了しない。さらに、お互いに評価を入力し終わるまで相手が書いた評価は見られず、一度書いた評価は後から修正できない。これによって、相手の報復を恐れる心配がなくなり、より正直な評価をすることが期待できる。
ゲーム理論に詳しい香川大学の天谷研一准教授は「互いを評価する際の『ゲームのルール』をうまく変更することにより、評価の信頼性を高めている」と指摘する。ネットオークションとフリマアプリ自体、値付けの仕組みなどが異なるものの、「評価の仕方」に焦点を絞ると一定の優位性が示唆されるということになる。
ツイッターが偽フォロワーを削除
その真の狙い
次に挙げるのは米ツイッターをめぐる直近のニュースに絡むものだ。同社は7月11日、不審な投稿を繰り返すようなアカウントによる「偽フォロワー」を世界数千万規模で削除すると発表した。
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