料理人が教える!「うまみ」とは/うますぎる味=じつはまずい?

料理にはそれぞれ「勘どころ」となるポイントがある。レシピどおりに作らなくても、その「勘どころ」さえおさえていれば素材がいきておいしくなるし、失敗もぐっと少なくなる。レシピに縛られないから、料理が自分のものになって、自由になる。そんな「勘どころ」を料理人として第一線で活躍されて約40年の分とくやま店主、野崎洋光さんに教わった。
5月16日発売、『おいしいごはんの勘どころ』(学研プラス)より特別連載

うますぎる味ってじつはまずい

 おいしいだしも、うまみが多すぎるとおいしくないんです。

 口の中で、うまみの要素は5つしか味わえないといわれています。それなのに、20個入ってきたらどうなりますか。複雑すぎて、逆に味なんか感じられなくなります。過剰なうまさが、じつはまずくしているのです。外食チェーン店の料理、インスタント食品、スナック菓子など濃すぎる味のものを食べる機会が増え、味がわからなくなってきているという状況が起きています。

 そこで、一度リセットして自分の舌でおいしいと感じる程度の味にしてみてはどうですか。以前、そんな話をしていると「うまいと感じる味の目安は、なにかありますか?」と質問されました。味の感度は人によって違うからむずかしいですね。

 僕の場合、お吸いものなどの汁ものを飲むとき、のどをスッと違和感なく通っていくものが、「ああ、うまいな」と感じます。“じゅわー”とくるものが違いますね。じつは生理食塩水を一番敏感に感じるところは、舌ではなくのど。味は舌で感じるといわれますが、案外、舌はいろいろな味でマヒしますから、僕はのどで味をみます。

 あるとき、和食屋での食事会でお吸いものが出てきました。ひと口飲んで明らかにのどが重い。そばにあったお茶を椀に注ぎました。一緒にいた友人が見ていたので、「薄めるとちょうどいい味になるよ」と同じようにお茶を注いであげると、ほんとだねと驚いていました。「これは味が濃すぎるからまずいんだな、薄めればいい」っていうことが自分の舌でわかるようになればいいんです。

 いいものほど、その味わいはすごく軽いです。魚だって鮮度がよければすっと食べられます。時間がたつと、口に残る味がでてくる。野菜なども時間がたつとえぐみや渋みの成分が少しづつでてきて、うまくても舌に残ります。

 ケーキだって生クリームの質のいいものはスッと軽く、胃がもたれませんね。その一方で、うまいんだけど重くてドシッとくる、胸やけする。これは質がよくないことを体が証明し、警鐘を鳴らしているわけです。違和感のないおいしさ、この感覚を体で覚えていくといいです。

水こそ偉大! その1/素材の味をじゃましない

 濃すぎるだしはインパクトがあっておいしいと錯覚しがちですが、じつは体が疲れる。味はバランスが大切で、やりすぎないおいしさが大事なんです。

 そこで思い当たる料理が、水飯です。僕は炊き立てのごはんの旨さに勝るものはないと思っていますが、これは別。炊きあがったごはんを水で洗い、冷水をかけて食べます。お茶漬けとはまるで違う、ごはんそのものの味が水だから楽しめます。水で急激に冷やすことがポイントで、米の甘さが際立ちます。ふだんのごはんとは違う、まさにやりすぎないおいしさです。

 調味料を入れないので水の味がでます。水道水ではなく、ここではミネラルウォーターを用意してください。客人を呼んでご馳走する場合は、その客人に関係のある産地の水を用意すると、話題作りにもなりますよ。

水は味があって味がない。日頃、あたりまえ過ぎて気づかない存在ですが、水は料理するうえで、だし以上に大事なもの。そんなことにも気づかされるのではないかと思います。

 ここで、水飯のレシピを詳しく紹介します。

シラス水飯

材料/炊きたてのごはん、しらす、ミネラルウォーター、氷……すべて適量

1.炊きたてのごはんをざるに入れ、冷水にさらしてかるくぬめりを取ります

2.茶碗に盛り、しらすをのせる。冷やしたミネラルウォーターをかけ、氷をうかべる

ごはん粒が汁を吸ってぶよぶよにならないうちに、さくっとかき込んでください

水こそ偉大! その2/ストレートに味を引き出す「だしなし巻き卵」

 和食の文化は、日本の軟水という水の存在がなければ成立しなかったでしょう。軟水は口当たりがやわらかく、素材のうまみ成分を引き出しやすいのが特徴です。風味豊かなかつおだしがとれるのは軟水だから。また、ふっくらとおいしいごはんが味わえるのも軟水で炊くから。煎茶の渋みをおいしく感じるのも、軟水で淹れるからです。もし、カルシウムを含むかたい味の硬水であったなら、淡い味わいの料理は適さないので、まるで違う料理文化になっていたはずです。ちなみに硬水は、肉などが入る洋風の煮込みに適しているといわれています。

 僕はいたるところで「だしは少なくてよい、素材にうまみがあれば水で十分」といっています。素材には味があり、その味をじゃましないためには水を使うのが一番いいからです。

 とはいいつつも、だしが肝心な料理もあります。茶碗蒸しやだし巻き卵などがそれにあたります。ふわふわとやわらかくてジューシーなだし巻き卵、みなさん大好きですよね。僕も好きです。でもそれ以上に好きなのは「だしなし巻き卵」。だしではなく、水を加えて焼くので、卵本来の味が楽しめ、すっきりしています。じつは、かつおだしは、イノシン酸を主成分とした動物性たんぱく質で、完全なるうまみ。それを卵に加えたら、淡くやさしい味わいをもつ卵の味は隠れてしまいます。だから、卵の味を楽しむにはだしよりむしろ水のほうが適していると思うのです。

 そんなに卵の味を楽しみたいなら、むしろ何も入れないのが一番いいんじゃないかって思う人もいるかもしれませんね。わざわざ水を加えるメリットは、卵がふっくらとして口当たりがやさしくなるからです。まさに素材の持つ味わいを、水が最大限にいかしてくれているわけです。

 ここでは、「だしなし巻き卵」の作り方を紹介します。

だしなし巻き卵

材料(作りやすい分量)/

卵…3個、水…50ml、A(砂糖…大さじ1、しょうゆ…小さじ2)、サラダ油…適量

1.卵に水を加えて軽く溶きほぐし、Aを加え混ぜる

2.卵焼き器を強火で熱し、油を薄くひく。だし巻き卵を作る要領で同じように焼き上げ、巻きすで巻いて形をととのえる。

※砂糖の甘さを引き立たせるために、塩ではなくしょうゆを加えます。わずかなしょうゆのコクが隠し味的な効果につながります。

水こそ偉大! その3/うまかったら水で薄める

トマトジュース、豆乳、牛乳にもうまみがあるので、これを利用することで料理はもっと広がると僕は思っています。ただ、これらはこのまま使うと、濃度が濃すぎるので、水で割って使うのがコツです。だしとして使うときは、2倍の水で薄めると適度な濃度になって味もすっきりとします。

 試しに成分無調整の豆乳があれば、まずはそのままストレートで飲んでみてください。次に豆乳の2倍の水を加えて薄めた状態で飲んでみてください。ストレートではあまり感じなかった豆乳の甘みや苦みが、薄めることによってわかりやすくなると思います。

 トマトジュースと豆乳を使った、シンプルなめんつゆを紹介しましょう。しょうゆを加えて味をととのえるのがポイント。しょうゆや塩分だけでなく、味にうまみを持っているからです。

トマトジュースのめんつゆ

トマトジュース(有塩)100ml、水50ml、薄口しょうゆ10mlを合わせます。

豆乳めんつゆ

豆乳(成分無調整)200ml、薄口しょうゆ30ml、砂糖小さじ1を合わせます。

 このように「うまみ」を理解し、水をうまく活用すると料理はぐっとおいしくなる。水は偉大です。

 次回の記事では、具体的に料理の勘どころとなるポイントとともにレシピをいくつか紹介していきます。

(写真/三東サイ)

           ★毎週・水曜日更新! 次回は5月29日を予定。

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おいしいごはんの勘どころ【和食レシピ】

野崎洋光

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コメント

ricchilove トマトめんつゆと豆乳麺つゆを早速やってみた! めちゃくちゃおいしー♡ すごいー✨ 6ヶ月前 replyretweetfavorite

ymkkym だしなし巻き卵はほぼ毎日やってるし、豆乳も飲むのに足りないとき水をまぜたらおいしかったし、たしかに水は偉大や。 6ヶ月前 replyretweetfavorite