5月になって木の屋に入社したさちとかなは、缶詰掘りの仕事が少なくなった8月から、内陸にある自社ビルの水産ビルでの出荷業務に配属された。
「出荷業務と言っても、ひたすら缶詰を段ボール箱に詰めて宅配便で送る、力仕事の連続でした。みんなバタバタで、研修も受けないまま、事務の仕事はしないまま。缶詰を売り尽くす2011年末まではそんな感じでした。テレビに木の屋の話題が出ると、次の日に注文が殺到して大変でした」と、さち。思っていた環境ではなかったが、そんな2人を支えたのが、工場勤務のオバちゃんたちだった。
「オバちゃんたちがすごく好きで、缶詰を掘ったり洗ったりして、しばらくすると仲良くなって、休みの日に家に遊びに行ったりしました。そんなつながりが木の屋ならではだと思います。あるオバちゃんに『あんたたちが一番大変だ』と言われたのには励まされました。そのオバちゃんのモツ煮がヤバイんです。缶詰を使った炊き込みご飯も美味しくて。半ば強引に「今日は泊まっていけ!」と言われて、よく夜遅くまで話しました」
2012年、新年の営業がはじまると、2人に制服が支給された。その制服は、2011年の2月に木の屋に届いていた物。奇跡的に津波被害に遭わずに残っていたのだ。
「2011年は、事務の仕事を一つも覚えることができなかったので、2012年から必死でした。現場の作業員だったのが、急にOLになった感じで。会社も震災前の製品が復活してきたので、事務作業が増えました。慣れなくて、仕事が終わらず、帰宅が深夜近くになったこともあります。でも、制服をもらえたのは嬉しかった」と、かな。
「私たちは、津波で流された商品しか見てなかったので、工場ができてから、社員が缶詰を作っているのをはじめて見たんです。その時にやっと、これが会社なのか? という気分がしてきましたね」と、さちは語る。
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