さようなら木の屋カフェ。そして工場再建がスタート

東日本大震災による大津波は、宮城県石巻市にあった木の屋石巻水産の工場を壊滅させました。掘り出された缶詰は、東京・世田谷の経堂に運ばれ、商店街の人々の協力で磨き上げられ、1缶300円で販売されました。「希望の缶詰」と呼ばれたその缶詰は、人と人をつなぎ、全国に広がり、洗われ、販売され、工場再建のきっかけとなります。 震災で希望を忘れなかった人と、手と心を差し出した人情商店街の人々がつながった感動の物語です。(バナーの写真:佐藤孝仁)

 秋が深まった2011年10月末、松友さんから嬉しい話が届いた。

「工場の再建の件なんですが、経済産業省の復興特別予算に申請するのはどうかということになりまして。これからプランをまとめて提出するんです。なんとも言えないんですが、もしも通れば、再来年の早い時期に新工場ができることになります」

「うわ、すごい! すごい!」私は思わず声を出した。

 松友さんは、木の屋に転職する前は、大手外食企業の品質管理部門で働いていて、生産ラインの立ち上げに一から関わった経験があった。つまり、今回のようなケースにもっとも必要な人材なのだった。いくら木の屋が小さな会社とはいえ、工場の設計を作り上げるのは、複雑かつ大変な仕事だ。聞けば、1ヶ月ほどで、設計図、事業計画書などの一式をまとめなければいけないらしい。松友さんは、「木の屋カフェ」の営業を減らして、石巻に戻る時間を作り、半ば突貫工事のように作業に取りかかった。

 そして12月の半ば、松友さんからさらに嬉しい話を聞いた。

「工場再建ですが、おかげさまで、なんとかメドがつきまして、年が明けたら本格的に新事業体制の構築を行うことになりました」

 嬉しい反面、寂しくもあった。なぜなら、「ミスター木の屋カフェ」のイケメン、松友さんがいなくなるということは、4月にスタートして、たくさんの人に親しまれた「木の屋カフェ」が閉店するということなのだから。しかし、壊滅状態になった会社が復活するのだ。新しい工場は、津波被害に遭うことのない内陸に建設予定。早ければ、2012年じゅうに再建されるということだった。

「まだ事業計画の段階なのでハッキリしたことは言えないのですが、新しい工場には、下北沢の『木の屋カフェ』で培ったノウハウを活かして、飲食やイベントができるスペースも作りたいと考えています」

 石巻に「木の屋カフェ」が復活したら、なんて素敵なことだろうと思った。

復興ストーリーの絵本

『きぼうのかんづめ』出版

 震災から1年が近づいた2012年2月末。私が書いた絵本が出版された。タイトルは『きぼうのかんづめ』。木の屋と経堂の街の人たちとの、震災前からのつながりと復興の実話をもとにしたストーリーに、NHKの子ども番組でも活躍するイラストレーターの宗誠二郎さんが素敵な絵を添えてくれた本だ。出版社は、「さばのゆ」常連でもあった杉田龍彦さんの会社「ビーナイス」。ブックデザインは、デザイナーの今井クミさん。プロデュースは、コピーライターの後藤国弘さんだった。

 実は私も、宗さんと同じく、「おかあさんといっしょ」や「天才てれびくん」などNHKの子ども番組や、「ポンキッキーズ」(BSフジ)などのシナリオや映像制作の仕事を生業の一つとしていた。

 絵本を作ろうと思ったのは、2011年6月17日のこと。石巻にいる鈴木さんと電話で支援物資の話をしていた時、衝撃的なことを聞いたからだった。

「あのですね。数十万缶はあると思われていた缶詰の埋蔵個数が、あと2、3万缶かもしれないんです……」まだまだ掘り出すことができ、どんどんお金に換えていけると思っていたのに、その数字を聞いて途方にくれた。缶詰がなくなると復興ができない。鈴木さんも、どう気持ちを切り替えていいかわからないようだった。

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この連載について

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蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街〜

須田泰成

東日本大震災による大津波は、宮城県石巻市にあった木の屋石巻水産の工場を壊滅させました。掘り出された缶詰は、東京・世田谷の経堂に運ばれ、商店街の人々の協力で磨き上げられ、1缶300円で販売されました。「希望の缶詰」と呼ばれたその缶詰は、...もっと読む

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