書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
誰もがしている素面面
何人かで飲んでいてたまに「酔ってる?」って聞いてくる人いません?
いや、今日は酒を飲みにきたわけであって、なぜ酒を飲むかと聞かれれば、端的にいえば酔っぱらうためなわけであって、しかも一緒に飲み始めてからしばらく時間が経っているのだから、そりゃあ完全なるど素面ということはありませんよ。ただ、まだまだ頭はしっかりしていていてほろ酔いの範疇だし、「やばい、おれ、酔ってるな〜」って感じじゃない。ていうかそこで「うん、酔ってるよ」なんて返答する奴、なんか妙に素直で気持ち悪いじゃないですか。そこで「いや、酔ってないよ」と返すわけですけれども、完全に1mmも酔ってないわけじゃないから、自分の中にどこか釈然としないものが残る。そもそも、いる? その質問。
別に、絶対に禁句! と言いたいわけじゃないんですが、この世の中でもかなり意味のない質問のひとつだな〜と思うわけです。例えていうなら、そうだな、久しぶりに会った瞬間、「太った?」って聞いてくる奴。あなたが私を以前より太ったと感じなたら、それはもうほぼ間違いない事実でしょうよ。それをわざわざ確認し、「うん」と言わせて、一体その会話から何が生まれるのか? そのくらいの意味のなさ。
酔っているほど「酔ってない」
ともかく、多少なりとも酒に酔った状態で「酔ってない」と答えた時点で、人は「素面面(しらふづら)」をしているということになりますよね。この素面面にもいろいろな段階があるなぁと。
世の酔っぱらいというものは、酔ってれば酔っているほど「酔ってない」と言いはる傾向にある気がします。
場末の酒場でべろんべろんになり、トイレに行こうとしてあっちへふらふら、こっちへふらふら、店員さんが「大丈夫? 〇〇さん、ちょっと飲みすぎだよ」なんて声をかけると「あ? バカ野郎おらぁまだ酔っぱらってね~よ!」なんて息巻いているおじいさん、きっとあなたも見たことがあるでしょう。
逆に、そこまで酔ってないんだけど、ついうっかり袖をひっかけてグラスの酒をこぼしてしまった時などは、「酔ってないよ」っていうと余計にかっこ悪い。そういう理性が働いているので、「ごめんごめん、まだそんなになつもりだったんだけど、ちょっと酔っ払っちゃったのかな〜」なんて言いがち。あぁ、酒飲みって滑稽。
僕が実際に見た一番ひどい例だとこんなのがありました。夜遅め、満員とはいかないまでも、7割くらい乗客が乗り、立ち客もいっぱいの電車内。ドアのそばに立っていたひとりの中年男性が、あきらかに泥酔してふらつき、ガツンガツンと周囲の人にぶつかって眉をひそめられています。