東京の930駅の中で、最も検索数の少ない駅に降りてみた

予想を裏切る展開と、伏線を見事に回収するエッセイが人気の岡田悠さんに、「旅」をテーマに綴っていただくこの連載。前回、ゴールデンウィークの人混みを避けるために、東京で最も空いている駅を探し当てた岡田さん。その駅を実際に訪れてみると……。
前回のあらまし
時は空前のGW10連休。人混みが苦手だが、家にいるのは寂しい。そんな「ヤマアラシのジレンマ」に悩んだ僕は空いている場所を探すべく、東京の全ての駅の検索数を調べた。その結果、930駅の中で最も検索数の少ない「箱根ヶ崎駅」に向かうことになった...

箱根ヶ崎駅に向かう電車は、30分に1本しかない。ゆったりと到着した銀色の車両に乗り込んで、空いている隅の席に座った。

未曾有の大型連休。1時間前に勇気を振り絞って外に出た僕は、中央線と青梅線で拝島駅まで行き、そこで八高線という路線に乗り換えた。車内は人がまばらで、車両のガタンゴトンというリズムだけが響いている。期待と不安がないまぜになって、振動と共に僕の胸を突く。

勢いのまま出かけたはいいが、本当に空いているのだろうか?
この貴重な休日に、僕はわざわざどこに向かうのだろう?

窓に移ろう景色を見ながら、まだ見ぬ箱根ヶ崎を想う。

電車がまたのんびり停まって、ドアが開いた。僕は車内から飛び出して、ホームの階段を駆け上がる。

僕の求めた「ヤマアラシの桃源郷」は、果たしてそこにあるのだろうか。

目に飛び込んだ景色が、これである。

めちゃくちゃ空いてる

駅構内は新しく広々としていて、それがこの空きっぷりを際立たせる。今がGWの東京であることを忘れそうになる程だ。いや、普段は通学駅として使われているようなので、むしろ休日の方が空いているのかもしれない。いずれにせよ第一印象は180点である。
旅は最高のスタートを切って、僕は興奮を抑えられない。胸がドグドグと高鳴って、がらんどうの構内に響きそうだ。

改札を出ると観光案内所があったが、誰も座っていない。何度も言うが、今はGWのど真ん中である。


誰もいない

駅前はかつて宿場町だったらしいが、今では住宅街が広がっている。案内に頼らず、足のおもむくまま歩いて回ることにする。住宅街は「閑静」という単語をさらにガラスケースに密封したみたいな静けさで、僕の足音だけがテクテクと響く。

知らない駅に降りるというのは、いつだっていいものだ。冒険心がくすぐられて、何もかもが新鮮に見える。普段は素通りする自販機なんかを眺めて、ほお100円か、みたいに呟いたりする。見たことのない地元のコンビニに、思わずふらっと立ち寄ったりする。コンビニの近くにはバス停があって、これもすかさずチェックしたら度肝を抜かれた。この本数、やはり箱根ヶ崎は只者ではない

赤い暖簾のかかった、小さな中華料理屋に入る。知らない駅では食べログランキングなんて見ないで、こういう景色に溶け込んだ店に入るのが良い。ふらっと、思いついたような顔をして。それがなんか格好いい気がする。

店内では店員のおばあさん、それから常連らしきおじいさんが天津飯を食べていた。隅に置かれた小さなテレビではサスペンスドラマが流れていて、二人ともそれに夢中になっている。僕は邪魔をしないよう素早くラーメン炒飯セットを注文し、無言の観客の和に加わる。

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旅と思えばそれは旅だ

岡田悠

「経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった」「近所の寿司屋のクーポンを記録し続けて3年が経った」で話題の岡田悠さんによる書き下ろしエッセイ!この連載では、「旅」をテーマに綴っていただきます。予想を裏切る展開と見事な伏線回収をお楽しみ...もっと読む

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コメント

Nakashi_C @takytank https://t.co/W6CivXgn6K 東京で一番検索されてない駅 1年以上前 replyretweetfavorite

ver33_ まさかの…😂 1年以上前 replyretweetfavorite

yoshinon 予想以上の何もなさだった。 でも、何もないのが良いなぁ。 1年以上前 replyretweetfavorite

15kun_X ヤマアラシのジレンマの解決方法が写真入りで載ってた。半世紀近く生きてきて全く知らなかった。。 1年以上前 replyretweetfavorite