怒涛のGWに、東京で最も空いている駅を探してみた

経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった」「近所の寿司屋のクーポンを記録し続けて3年が経った」で話題の岡田悠さんによる書き下ろしエッセイ!この連載では、「旅」をテーマに綴っていただきます。岡田さんならではの予想を裏切る展開と見事な伏線回収をお楽しみください。
第1回目は、人混みが苦手な岡田さんが、ゴールデンウィークに東京で最も空いている駅を探すルポです。

僕は人間よりイノシシの方が多いような田舎で生まれ育った。だから上京した今でも人混みが苦手だ。満員電車なんかに乗るとすぐに目眩がして、だんだんと視界が遠ざかっていく。そのせいで電車通勤も電車通学もしたことがない。

時は2019年のゴールデンウィーク空前の大型連休である。日本全国あらゆる場所が混みに混み、栃木県では宿泊料金が471%上昇したという。恐ろしくて出かけることすらままならない。きっとむせ返る人の波にさらわれるだろう。渋谷など歩こうものなら全身の穴という穴にタピオカを詰められるに違いない。そういう被害妄想に怯えている。

それなら自宅に居ればいいのでは、と思われるかもしれない。でもそれも嫌だ。なぜなら寂しいからだ。GWに一人で家にこもるのはとても寂しい。かと言って人混みは苦手だ。そういう複雑な心境を抱えているのだ。

そう、あれだ、ヤマアラシのジレンマ
鋭い針をもつヤマアラシは、凍えた身を寄せ合おうとしても針が刺さって傷ついてしまう。そうして離れると、今度は凍えて死んでしまう。そんな有名な寓話。

本来は心理的距離に使われる用語だが、僕にとっては物理的距離も同様である。
人が近くにいすぎると苦しくなるし、一人で閉じこもると寂しくなる。

…そんな僕に、どこか良い場所はないか。
混んでいないけど程よく楽しめてできれば近めの、そんな都合の良い場所はないか。

ここで「東京 すいてる」などと検索するのは最も愚かな行為である。
時は未曾有の10連休、連休オブ連休だ。同じ発想のヤマアラシたちが集結し、結果お互いの針で刺し合う白兵戦となってしまうだろう。

ではどうすればいいか。

逆である

「検索されていない」場所を探せばいいのだ

検索されていないとは、すなわち興味を持たれていない場所。
好きの反対は嫌いではなく、無関心であるとよく言われる。

そういう場所が、僕にとっての桃源郷なのだ。

検索されていない場所、いわば「無検索駅」を探すべく、僕はまず東京にある全ての駅が記されたファイルを作成した。JRからマイナーな私鉄まで、西は奥多摩から東は小岩まで、実に930駅が掲載されているデータベースだ。(ちなみになぜ駅なのかと言うと、僕は免許を失効した故に運転という社会人の基礎的な動作ができないからだ。なので電車が届く場所にしか行けない。そういう制約の下で生きているのだ。)


東京の駅の一部

そしてこの930駅のデータを、「Google キーワードプランナー」というGoogleが提供しているツールにぶち込む。これを使えば、その単語が過去どれくらい検索されているのかが分かる。これで全駅の検索数ランキングが作れるわけである。完璧な計画だ

ExcelファイルからCSVデータを吐き出して、そのままキーワードプランナーに放り込む。量が多いからか、なかなか結果が出てこない。くるくる回る読み込画面は僕をわざと焦らしているようで、何とも、もどかしい気分になる。

待てをくらった僕はその結果を予想する。
きっと検索数の多いのは東京か新宿だろう。問題は少ない方の駅だ。やっぱり23区外だろうか。それとも意外と都心にあったりして。駅名を思い浮かべても、思い浮かべられる時点で候補からは外れる。僕が探しているのは「こんな場所あったんだ!」という驚きだ。いつもの通学路に新しいルートを見つけた時みたいな、そんな鮮やかな発見を求めている。

しばらくして、ついにキーワードプランナーがその結果を叩き出した。

まず、最も検索されている駅のランキングがこちらだ。

1位は、乃木坂…乃木坂?

明らかに違う検索意図が混ざっている。こういう複数の意味をもつ駅名にとって、検索数は指標にならない。全然完璧な計画じゃなかった。

ただ、2位以降の順位は妥当に見える。東京に新宿、池袋に渋谷。そしてそんな大御所の中に顔を出す吉祥寺は流石である。

これは僕にとってのブラックリストだ。こういう地域に近づいてはいけない。ヤマアラシの針がズブズブと刺さり、出血多量で気絶してしまう。僕も都会で生まれ育っていたら、そんな場所にも平気で行けたのだろうか。田舎ではイノシシのシメ方は習ったが、人混みでの生存方法は教えてもらえなかった。

ちなみに、検索順位がちょうど中間にあたる駅も見てみよう。全人類の顔の平均をとると、絶世の美男美女になるという。東京における平均駅は、ある意味で東京を代表する場所なのではないか。

ちょうど真ん中にあるのは...「戸越公園」

なんということだ。家からめちゃくちゃ近い。僕は「ザ・東京」に住んでいたのだ。これからは「ザ・都民」を名乗っていこうと思う。

ただその戸越公園もGWは大いに混み、ベンチに順番待ちができるほどである。やはりもっと、検索数を僕のレベルまで下げていかなければならない。

さて、ここからが本番だ。

930駅を、検索数が少ない順に並び替える。そうすると「無検索駅」のランキングが完成する。

マウスを握る手に、じんわりと汗がにじむ。ここまでやって、知ってる駅が出てきたらどうしよう。所詮東京、混んでいない場所などないのだろうか。僕の期待は霞に放たれた矢のように、あてもなくダラダラと空を切って、ただ地面に落ちていくだけかもしれない。

悩んでいても仕方ない。
意を決して、マウスをクリックした。

東京で最も検索されていない駅たちが...これだ!

期待は報われた。矢は的に命中したのだ。
見事に馴染みのない駅が並んでいる。

1位から見てみよう。
順番に荒川七丁目、町屋二丁目、荒川一中前、荒川二丁目...荒川多くない?

調べてみると、町屋二丁目すら荒川近辺にあるようだ。
つまりこの狭い地域に駅が密集していることで、検索ボリュームが分散してしまっているらしい。

そこで、もう1つルールを追加することにした。

「半径1km以内の駅は同じとみなす。」

これによって1~4位は統合されて、しかも圏内に「町屋」という中規模駅もあることも判明して、これらの駅は完全にランキングからは外れた。危なかった。騙されて人混みに行くところだった。

そしてその結果、堂々の1位に躍り出たのが...

「箱根ヶ崎駅」だ。

箱根ではない、箱根ヶ崎だ。東京都瑞穂町にあるJRの駅らしい。

箱根ヶ崎駅の月間平均検索数ボリュームは30、実に新宿の1万2千分の1である。しかも半径1km内に他の駅が1つも存在しないという、まさに無検索駅の名を冠するにふさわしい駅だ。

Wikipediaによると箱根ヶ崎は1931年に開業した歴史ある駅で、近くの中学校や高校の通学駅としても利用されているという。そんな立派な駅が、なぜトップに躍り出たのだろうか。

僕はこの箱根ヶ崎に強い興味を抱いた。僕の理論上、新宿の1万倍混んでいない東京の駅。本当であれば、この地獄の大型連休を乗り越えるのに最高の場所である。

気づけば足は箱根ヶ崎へと向かっていた。

(後編に続く)

後編「東京の930駅の中で、最も検索数の少ない駅に降りてみた」は6/5(水)更新予定。お楽しみに!


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この連載について

旅と思えばそれは旅だ

岡田悠

「経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった」「近所の寿司屋のクーポンを記録し続けて3年が経った」で話題の岡田悠さんによる書き下ろしエッセイ!この連載では、「旅」をテーマに綴っていただきます。予想を裏切る展開と見事な伏線回収をお楽しみ...もっと読む

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コメント

Saki_for_travel 他にも調査記事はいくつも出していて、そのどれもが秀逸。これとか。 https://t.co/ZKWlPKrAs8 11ヶ月前 replyretweetfavorite

ArikuiSansyouuo よく見る記事だと思ったら 納得した https://t.co/JPqII4qP3V 1年以上前 replyretweetfavorite

ver33_ あら…… 1年以上前 replyretweetfavorite

YuuuO そこそこ拡散されてるので宣伝をぶら下げときます。最近書いてる連載です。レティーシャ・ティッチィとは何の関係もありません。 1年以上前 replyretweetfavorite