「もう、やっていけないよ」。あるケーキ店オーナーは大きなため息をつく。自慢の焼き菓子をネット販売しているが、ヤマトの営業が急に、配送料を倍にすると通告してきたのだ。
ヤマトの値上げをのめない荷主が悲鳴を上げている。大幅な値上げを盾に取引停止を迫られるケースもあり、「ヤマトは宅急便を“社会インフラ”というが、その責務を果たしているのか」といった怨嗟の声が聞こえてくる。
規模の大小や地域を問わず顧客を開拓してきたヤマト。しかし自社のコンプライアンス問題を口実に、値上げや総量規制を断行。ヤマトの尺度に合わない顧客を切り捨てる今のやり方は、かつての正義感溢れる企業イメージとは懸け離れている。
そもそも宅急便は2代目社長、小倉昌男が「打倒・郵便小包」の発想で開発した。当時、個人間の小包輸送は旧郵政省と旧国鉄の独占事業。“親方日の丸”体質のせいか、田舎から送った果物が都会に着くころには腐っているなど、不便でお粗末なサービスだった。
これに商機を見いだした小倉は、電話1本で集荷に駆け付け、原則として翌日配達する宅急便を開発。早くて丁寧、明快なサービスが主婦層から支持を得て、開始から8年で郵便小包の個数を抜いた。