酔描 ~初夏の公園にて~【パリッコ】

暮らしの中にぽっかりあいた何気ない時間。珍しいお酒があるとか、特別なつまみがあるとかそういうことでもない。でもいい時間。パリッコさんがそんな時間について書いてくれています。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

クリアクーラー

令和元年5月5日、日曜、10時10分。自宅近くの石神井公園内某所のベンチでプシュと缶チューハイのプルトップを引き起こし、一口飲んだ。
銘柄は「アサヒ クリアクーラー 沖縄産シークァーサーサワー 500ml」。アルコール度数は6%。サンダルに七分丈のズボンに半袖Tシャツという服装で、ただ外にいるだけで、まるでぬるま湯に浮かんでいるかのような初夏の陽気。そんな日にぴったりな気がして、コンビニの棚から選んで引き抜いたものだ。つまみはなし。

朝食を食べさせ、ひとしきり元気にはしゃぎ回った娘がぱたんと朝寝を初めてしまい、妻に断って散歩に出てきた。そう長く眠っているということもないだろう。タイムリミットは40分くらいか。

目の前を赤や黄や青の服を来たランナーが走り抜けてゆく。見知らぬお父さんと小さな娘。たどたどしい足取りで父親のあとを追いかけながら、何か一生懸命しゃべりかけている。ゆっくりと前を通り過ぎる老夫婦。遠くのベンチには真っ白いTシャツを着た老人が座っているが、特に何もしていないようだ。

天気は快晴。視界には過剰なまでに濃い緑、緑、緑。あちこちからピチュピチュピチュと、鳥の鳴き声がサラウンド状に聞こえてくる。かすかに混じるカラスの声だけが少し無粋にも感じるが、こんな真っ当な場所で朝から酒を飲んでいる自分はむしろカラスの側、いや、それすらカラスに失礼な話か。今、視界の中で幅を利かせているのは、ハトでもスズメでもなくムクドリ。オレンジ色のくちばしと足に愛嬌がある。

何口目かの酒を口に含む。ふと、さまざまに重なり合っていた音が一瞬止み、次に左から右へ、サーっと風が吹いた。頬を撫でる風の心地よさを肴に、コクリと飲み込む。爽やかでとてもうまい酒。頭の芯にふわりとした酔いが広がりはじめていることに気づく。

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スズキナオ /パリッコ

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