「数百年にわたって第一線の研究テーマだった数学が、今はポケットの中に入っているすごい時代だ」
こう強調する東京工業大学の加藤文元教授が、数学の“王道”の分野が社会の役に立った例として挙げるの が楕円曲線暗号だ。
楕円曲線とは、y2=x3+ax+bという式で表すことができる曲線のこと(図1)。もともとは楕円の周の長さを計算する際に登場する式で、中世の数学者たちは惑星の動いた距離を計算しようとしていた。そして、数学者たちが研究を進めたことで、楕円曲線は面白い性質を秘めた式であることが分かり、一大分野へと発展していった。
とりわけ有名なのは、約360年にわたって数学者の挑戦をはね返し続けた世紀の難問、「フェルマーの最終定理」との関わりだろう。
xn+yn=znを満たすx、y、zの組は、nが3以上の自然数なら存在しない。問題文の意味だけなら小学生にも理解できるフェルマーの最終定理は、英国の数学者アンドリュー・ワイルズによって1995年に証明された。
この証明のヤマ場に登場するのが楕円曲線であり、「全ての楕円曲線はモジュラーである」という谷山-志村予想をワイルズは証明したことで、フェルマーの最終定理の証明に成功したのだ。
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