論理的思考は、当たり前の思考法である。特にびっくりすることはない。しかし、論理的思考をどんどん繰り返し進めていくと、やがて全く新しい別の見方に到達することがある。うそつきから必要な情報を得る質問文の作り方や、簡単なゲームの必勝法で、論理的思考を体験してみよう。
まずは幾つかの言葉を定義する。正しいか、正しくないかを決めることができる文を「命題」と呼ぶ。例えば、「象は4本足の動物である」は「正しい命題」で「真」であり、「象は2本足の動物である」は「正しくない命題」で「偽」である。
命題の扱いで問題となるのは、命題を使った推論が正しいかどうかの自動判定や、さまざまな論理的判断を基本的な命題を組み合わせてどう効率的に実現するかという場面である。特に後者は今の社会を支えるデジタルコンピューターの論理的判断を実現する技術だ。数や文字列、画像、音声に対して、日々膨大な回数の論理的判断が高速で実行されている。
論理的判断を、基本的な命題の組み合わせによって実現する。このことから最初に考えてみよう。
【問1】3人の意見
あなたの3人の部下AとBとCは、事業計画案に対して賛成か反対かのどちらかである。あなたは3人の意見を聞いて、あなた自身が賛成か反対かの意見を、どんな場合でも表明しなければならない。あなたの論理的判断の結果は、何通りあるか?
3人の部下AとBとCのそれぞれの意見は、賛成か反対の2通りだ。まずAの意見は2通り、Bの意見は2通り、さらにCの意見は2通り、従って全体では2×2×2=8で8通りの場合がある。
あなたは賛成か反対かという判断結果を、これら8通りの場合全てに対して示さなければならない。あなたの意見は、まず場合1について2通り、次に場合2について2通り、さらに場合3について2通り……最後に場合8について2通り、従って2×2×2×2×2×2×2×2=28=256で256通りの論理的判断の結果がある。賛成を○、反対を×で示した次の表の通りだ。
例えば判断結果1では、場合1から8までのどの場合も、あなたは反対意見である。すなわち部下の意見にかかわらず反対の立場だ。判断結果2では、場合1から7までは反対で、場合8のみ賛成意見だ。つまり一人でも反対者がいれば反対で、全員賛成のときのみ賛成ということになる。
判断結果4では、場合1から6までは反対で、場合7と8で賛成。部下AとBが両方賛成したときのみ賛成で、それ以外は反対である。あなたの判断に事実上Cの意見は反映されていない。最後の判断結果256では、場合1から8までのどの場合もあなたは賛成意見だ。すなわち部下の意見にかかわらずあなたは賛成である。
この256種類のみならず世の中のさまざまな論理的判断はどれでも、基本的な命題、この場合は「Aは賛成」「Bは賛成」「Cは賛成」と、基本的な論理判断「でない」「そして」「または」を組み合わせると実現できることが知られている。
ここでPとQを命題とし、○印で真、×印で偽を示すと、下表のような対応関係が成り立つ。命題「Pでない」はPが真なら偽で、Pが偽なら真となる。「でない」を付けると判断が逆転する。
命題「PそしてQ」は、PとQが両方真なら真で、一方でも偽なら偽となる。「そして」は非常に慎重な判断である。命題「PまたはQ」は、PとQが両方偽なら偽で、一方でも真なら真となる。「または」は非常に積極的な判断だ。
これを踏まえて、先ほどの「3人の意見」の判断結果2の論理的判断を、命題「Aは賛成」「Bは賛成」「Cは賛成」と、論理判断「そして」を2個使うと、下図・上のように実現できる。これで一人でも反対者がいれば反対で、全員賛成のときのみ賛成という判断結果となる。
また、例えばAとCが賛成、Bが賛成でないとき、判断結果は上図・下のように、「A賛成そしてB賛成」が偽となり、さらに「〈A賛成そしてB賛成〉そしてC賛成」が偽となる。