かわかみ・のぶお/1968年、愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業。97年、ドワンゴ設立。2011年スタジオジブリ入社、鈴木敏夫氏の見習いを経験。15年6月、KADOKAWA・DWANGO(現カドカワ)社長。
──数学の勉強を今も続けている理由は何でしょうか。
単純に面白いから、と言うとそれまでですが、「この世とは何か」といった、世界の秘密を知りたいという欲求からです。例えば「時間・空間とは何か」という問いに僕はすごく興味があります。ひも理論のような現代の理論物理学の話などを専門書で理解するのは無理なので、一般向けの本などで読むわけです。しかし、数学が分からなければ、一般向けの解説本すら、内容がよく分からない。かといって子供だましの比喩の説明では満足できない。数学を勉強して、物理学者が捉えている世界のイメージを、自分の頭でも理解したかったというのが一番の理由です。
そして、数学は難しい。この世にはさまざまな不思議がありますが、僕のように50歳にもなれば大抵のことは分かった気になってしまう。でも数学は、分かった気になることすらも難しい。数学こそが、人生で最後に残ったどうしても分からない謎なんですよ。
──数学の重要性を感じたのはいつですか。
決定的に必要だと感じたのはAI(人工知能)の研究です。2014年にドワンゴ人工知能研究所を設立しましたが、うちのAIエンジニアたちとの会話で、数学力不足を痛感しました。
僕自身もプログラミングの素養はありますので、エンジニアとの議論についていけないことはほとんどなかった。ところが、ディープラーニングは説明されても数学的なところが分からない。現代数学の教養がなければ、ディープラーニングの仕組みや可能性を理解できないなと実感したのです。
また、エンジニアは最新の技術動向をカバーするために膨大な知識を継続的に覚えることが必要ですが、数学は量より質です。
部下のエンジニアは忙しいので、数学を真剣に勉強する時間なんてない。だから数学を勉強して、現代数学の用語を会話にちりばめると、エンジニアに対して精神的に優位に立てる。「マウントを取れる」ということです(笑)。
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