左から今井雄紀さん、牧村朝子さん、小池みきさん
編集者って何する人?
牧村朝子(以下、牧村) 会場の皆さん、「編集者の仕事を説明できる」っていう方、どれくらいいらっしゃいますか? 学校みたいに当てたりしないので、ちょっと手を挙げてみていただけませんか……
会場 (3人挙手)
牧村 そうよねえ。ほとんど知られてないよねえ。わたしもわかんなかったもん。挙手ありがとうございます。じゃあ今井さんにお伺いしようかな。編集者って、なあに?
今井雄紀(以下、今井) おそらく、日本で一番知られている編集者といえば……
牧村 (ごくり)
今井 「サザエさん」のノリスケでしょうね。
牧村 あはは(笑)伊佐坂先生の原稿を取りに行く人だ!
今井 そうですね。ノリスケの職場環境って最高で。会社にいても、親戚の家に電話1本かければ伊佐坂先生が何をしているか教えてもらえるし、長期戦になっても、飯でも食いながら原稿を待てちゃうんですよね。
会場 (笑)
今井 ま、それは冗談として。ノリスケのやってるあれは、あえて分類すると「文芸編集者」ですね。他にも「ビジネス書編集者」、「マンガ編集者」など、いろいろあります。ジャンルによってやっていることは少しずつ違いますが、基本的には、「なんらかのプロフェッショナルの執筆をもり立て、管理する」仕事です。
「この企画を誰かに書いて欲しい」ということで、執筆者を探すところから始める場合もあります。著者の悩み相談も聞きますし。本のタイトルや著者プロフィール、原稿の内容など、最後まで関わるのが、編集者です。
牧村 学校の先生が作文を直す時みたいに、赤ペンを入れて……
今井 そうそう。もちろん、その上で著者の方にはご確認いただくんですが。ですから、優れた編集者は文章が上手いですね。
牧村 じゃあ、まとめると、編集者というのは……
・本が書ける人ハンター
・原稿をもらう係
・お悩み相談係
・赤ペン先生
・タイトルや著者プロフィールなど、宣伝に関わる部分を決める人
ってこと?
小池みき(以下、小池) そういうまとめ方もできるのかな。私は編集者というのは、「まず伝えたい何かがあって、それが届くべき人に届くようにするためのあらゆる工程に関わり、著者だけではできない部分を埋める人」だと思ってる。
牧村 ママじゃん!!
会場 (笑)
本作りはチーム戦
小池 まあ、著者がなんでもできる人の場合、編集者が原稿を右から左に流すだけっていうこともあるよ。逆に、なんなら本文も編集者がほとんど書いているんじゃないかってくらい編集者が制作に関わるかたちもある。だから定義が難しいよね。編集者の仕事って。
今井 「百鬼夜行」シリーズで有名なミステリ作家の京極夏彦先生は、
牧村 組版?
今井 そのまま印刷所に持っていけば本になる、という状態まで本文データを作るってことですね。例えば、ルビ……読み仮名を、どうふるかというところまで。本文に「跳梁跋扈」という言葉があったとして、それを最初の「跳」の字の頭に揃えて「ちょうりょうばっこ」と続けるか、それとも「ちょう りょう ばっ こ」と1文字ずつ割り当てるか、とか……
牧村 こまけえ〜〜〜〜!!
今井 ただ、なら編集者は何もしないでいいのか、というとそうでもない。先生の信頼に足る編集者になれるか、数多いる編集者の中でも他ならぬ自分に原稿を渡してもらえるか? というのが、編集者の実力になってきますね。
小池 本って、著者が1人で書いているイメージが強いと思うんです。たしかにそういう著者さんもいるんですけど、実際はチーム戦なんですね。たとえば『百合のリアル』に関しても、当時は牧村がまだ長文を書き慣れていなかったので、構成の部分でサポートしました。全体の流れを作った上で、細かい表現についても、箇所によっては具体的にこちらが本文そのものを書いて提案する、とか。私が提案した部分も、今井さんが提案した部分もありますね。悪い意味じゃなく、みんなで作った本なんです。これは著者の力不足を示しているのではなく、それぞれが力を発揮して作ることができた、ということだと思います。
今井 『百合のリアル』本文中に出てくる、「MtF」という言葉があるんですけど。
牧村 はい。Male to Femaleの略語ですね。男性とされて生まれ、女性として生きる人。
今井 それを僕、「マウントフジ」だと思ってたんですよ。富士山。
会場 (笑)
今井 それがそのまま、『百合のリアル』登場人物の台詞として出てきたりしますね。著者は「やれやれ」って思うかもしれませんけど、編集側のその一言で、「MtFをマウントフジだと思うくらいの人が読んでもわかるような文章」ができあがる。
小池 あと、「登場人物の台詞に出てくる男性器の名称として、読者が違和感なく、いやな気持ちにならず読めるのはどれか」も、男性である今井さんに聞いた記憶がありますね。
今井 はい。正式名称なのか俗称なのか……俗称にしても末尾は「こ」なのか「ぽ」なのか、といったような。
自分を信じることが一番大変だった
小池 そういう選択を何万字分、無数にしていかないといけないのが本作りです。他にも、「ここは言い切っていいのか」とか、「これが」なのか「これは」なのか、とか……判断を重ねていく。まきむぅは、そうやって本作りをしていて、どこが一番大変だった?
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