終電逃し その2【スズキナオ】

終電を逃す。うっかりってことがほとんどで、それだけその時の飲み会が時間を忘れるほど楽しくて、充実していたってことなんだろうけど。そのあとの絶望ときたら。。パリッコさんに引き続いて、スズキナオさんによる終電逃しの思い出第2弾です。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

マンガ喫茶かタクシーか、それとも…

先日、当連載でパリッコさんが「終電逃し」というタイトルで、酔って電車に乗り遅れたり寝過ごしたりした時のことを書いていた。


それを読んでいると、遠い昔の出来事として薄れかけていた記憶が、まるでカップ麺にお湯を注いだかのように蘇ってきたのだった。私にもそんなことがあった……。

まだ東京に住まいがあった頃、私は地下鉄の有楽町線沿線に住んでいた。酒を飲んで酔った帰り、なんとか終電には間に合い、あとは自分の家の最寄り駅できちんと電車を降りさえすれば問題なし、というところで、そうはいかずに終点まで寝過ごす、ということが何度もあった。

有楽町線の終点が和光市という駅で、目が覚めるとそこである。今はどうだかわからないけど、その頃の和光市駅前の、しかも深夜1時近くとなると、時間を潰せる場所はそれほどなかった。マンガ喫茶はあったのだが、朝までのパックを利用すると確か2500円ぐらいはかかった気がする。あとはチェーン居酒屋が何軒かあるだけだったような(もっと探し回れば終夜営業しているお店は色々あったのかもしれない)。タクシーに乗るとおそらく4000円ぐらいはかかる距離だと思う。マンガ喫茶が2500円、タクシーが4000円。明日も朝から会社である。この場合どっちを選ぶ……いや、どっちも選ばない。

「2500円あれば明日も飲みに行けるじゃないか」とその頃の自分は考えていた。ここでマンガ喫茶を選ぶとしたら、どこかで一回飲みの機会をガマンしなければ帳尻が合わない。それは嫌だ。それなら俺は歩く!と、いつも歩いて帰ることにしていた。休まず歩き通しでも3時間半ぐらいはかかる。和光市からの暗い夜道、まだ酔いの残った体には長すぎる距離。悪夢のように思い出す。

酔った勢いで

もっと遠くから歩いて帰ろうとしたこともあった。横浜駅の近くで友人と飲んでいた時のこと。友人が飲み会の途中で、最近付き合い出したという彼女を呼び、三人で歓談しているうちに気づけば東京方面へ帰る私の終電の時間が過ぎていた。

横浜に住む友人は「うちに泊まって行きなよ」と言ってくれたのだが、なんだか幸せそうな友達と彼女が急にうらやましく思えたのだろう、「いいわ!俺、歩いて帰るし!」と言ってもう後ろも振り返らず適当に歩き出した。酔った勢い、愚かだ。

横浜からどっちの方に歩いたらどれぐらいで東京に着くのか見当もつかなかったが、もう行くしかない気持ちになっていた。その頃はナビのついたスマホも持っていなかったし、道路標識の文字を頼りに歩いたんじゃなかっただろうか。

だが、歩けど歩けど東京にはたどり着かない。今調べてみると横浜駅から東京駅まで30数キロはあるようだ。1時間歩いたぐらいですぐ疲れ、近くにあった公園のベンチに座ってタバコを吸った。一休みし、再び歩き出そうとした時、公園のゴミ捨て場に「キックボード」が置かれているのを見つけた。車輪のついた細長い板にT字のハンドルが伸びていて、片足でケーンケーンと蹴って進む、あのキックボードである。
捨てられてはいるが、十分に使えそうである。「これで東京までの時間が短縮できるぞ!」と思った。ロールプレイングゲームの中で新しい乗り物が手に入って、その後の移動が一気に快適になるようなあの気分。

キックボードで夜が明けて

そのキックボードを拝借し、嬉しくて大笑いしながら夜道に漕ぎ出したのだが、キックボードに乗るのはその時が人生で初めてで、乗ってみてびっくりしたのだが、結構難しいのだ。片足をボードに乗せ、もう片足で蹴る、まずそのバランス感覚に慣れるまでが大変だ。また、その時手に入れたキックボードがかなりチャチなものだったのかもしれないが、ちょっとした段差でも乗り越えられず、蹴った勢いそのままにずっこける。
さらに、坂道がかなり辛い。割とゆるやかな勾配でも、上り坂になると蹴っても蹴っても進まず、体力をどんどん消耗する。急な坂だと、手に持つしかない。アイテムを手に入れる前より苦しい旅になっている。

しばらく休んではキックボード、疲れ果ててはしゃがみ込み、またキックボード。そうしているうちに明るくなってきて、どうやら近くに駅があるらしいので、もうそこから電車に乗ることにした。それが確か東神奈川という駅で、横浜駅から電車で数分の距離だと後で知った。私は一体何をしていたのだろうか。

あの不思議な時間

そんな「終電逃し」の辛さをなんとかポジティブなものに昇華できないかと思い、数年前、物好きな友達に集まってもらって「あえて終電を逃して歩く」というのをやった。終電で池袋駅に集合し、明け方までみんなで歩く。その時は池袋から護国寺、千駄木、上野、浅草へと歩き続けた。始発が走る時間になったら解散である。

深夜の寺でお参りしたこと、「この居酒屋よさそう!」と思っても閉まっていて行けないのを知ったこと、上野動物園の近くで一休みしていたら静かな闇の中から動物の鳴き声が聞こえたことなど、その夜のことは妙に印象に残っている。歩き続けていると不思議に酒を飲む気にもならず、みんな黙々と足を前へ前へと出していた。あの不思議な時間。久々にまた、あえて終電を逃してみたくなってくる。

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パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!

スズキナオ /パリッコ

なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、...もっと読む

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