九螺ささら「きえもの」

九螺ささら「きえもの」【最中】

かまくらの中は二人きりだった。
初めて茉莉に女を感じて欲情した。
――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!



 望月の最中(さなか)に咲き初める雌花は体をゆっくりほどき濡れ光る



「かまくらで会いましょう」というメールが美空茉莉(みくまり)から来たのは十月だった。まだ暑さが残っていたため、「雪が降ったらそうしましょう」と返信した。

 米の産地である魚沼は、大事な水神様をかまくらの中に祀る。けれど地域の子供たちにとって、かまくらは隠れ家だ。

 かまくらの中は二人きりだった。

「あたしの名前の美空茉莉は当て字なの。本当は水分神(みくまりのかみ)と書くの。あなたの田上(たがみ)も当て字で、田神なの。それで、二人は一体にならなければならないの」

 ものごころついた時から茉莉につきまとわれているという被害者意識を持っていたけれど、それは生地の風土による宿命なのか。長年の嫌悪感を悪怯れると同時に、初めて茉莉に女を感じて欲情した。

 影を揺らす炎が、かまくらの低い天井に煤を付けている。そこから溶けてゆく。子供の頃正月に婆ちゃんからもらった最中を思い出していた。餅から作った皮が上顎に張り付いて取れない。一体化している。

 美空茉莉と自分が一体化して、この土地の一部になっている。かまくらは溶け出し、逃げられない二人を覆う。

 茉莉と俺は、ねっとりと甘く埋もれる最中の餡だ。



 生贄は白装束に包まれて巨大な口へと奉納される



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新潮社
2019-01-18

この連載について

初回を読む
九螺ささら「きえもの」

九螺ささら /新潮社yom yom編集部

初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した歌人・九螺ささらによる、短歌と散文が響き合う不思議な読み物。電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

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