「ジャン・レノと広末涼子!」
“ひな壇”に多くの芸人たちが座っている。テレビでよく見る光景だ。その中にひときわ目立つ男がいる。FUJIWARAの「フジモン」こと藤本敏史だ。
番組の中の細かなツッコミどころを見逃さず声をあげている。ひな壇の芸人たちの大きな役割のひとつは、その場を盛り上げることだ。「イエーイ!」だとか「フー!」などと賑やかし、「楽しげ」な空間を演出する。いわゆる「ガヤ」だ。あえて偽悪的に言えば、“その他大勢の仕事”とも言える。
だが、フジモンはその「ガヤ」の概念を大きく変えた。
たとえば、有名なステーキ屋がスタジオに来て、「ワサビで召し上がっていただくとお肉の良さが引き立ちます」という。その際、「わー!」だとか「おいしそう!」などと盛り上げるのが普通のガヤだ。フジモンは違う。
「ジャン・レノと広末涼子!」と、すかさず叫ぶのだ。一見、まったく関係ない単語。しかし、知っているものはピンとくる。ジャン・レノと広末涼子は映画『WASABI』で共演した。だから、「ワサビ」という単語に反応してフジモンは発したのだ。こうなるとフジモンは止まらない。続けて叫ぶ。
「記者会見で広末が泣いてた!」
この映画の記者会見で広末が謎の涙を見せたことは、当時のワイドショーで大きな話題を呼んだ。そのことを言っているのだ。だが、もちろん、番組とはまったく関係がないし、そもそもそんなことを覚えている人は少ない。けれど、それが重要なアクセントになっている。時に、番組の流れを止めてしまったり、共演者から「うるさい」と言われても止めることができない。それがフジモン流の「ガヤ」だ。
頑張れば、頑張るほど、番組が、テレビが元気になる
フジモンは生粋の「テレビっ子」だ。頭の中には豊富なテレビ知識が詰まっている。ひとたび、関連のある単語が話題に上がると、それがトリガーになって、矢継ぎ早に「ガヤ」が出て来る。フジモン以上に「テレビっ子」であることが、武器になっているお笑い芸人はなかなかいない。フジモンの「ガヤ」は、その他大勢ではできないフジモンならではの仕事だ。
特に特番が多くなる時期は真骨頂を発揮する。5時間、6時間の収録が当たり前になると、出演者は疲れ口数が少なくなっていく。そんなとき、フジモンだけは口数が減らない。それどころか、ますます口を開く回数が多くなっていくのだ。
勝手な使命感——。フジモンはそう自嘲する。
「誰にも頼まれてないのに。それをスタッフさんがね、藤本、頑張ってるなと思ってくれたらいいと思うんですけどね」【※1】
自分が頑張れば、頑張るほど、番組が、テレビが元気になる。その“使命感”に燃えているのだ。
「テレビの中の人になる」という夢
子供の頃からテレビが大好きだった。最初に虜になったのは、ザ・ドリフターズだった。「アホになるから見るな」と親に言われても、もちろん見るのはやめられない。学校では彼らの真似をし、笑いを取り、クラスの人気者になった。
そのうちにダウンタウンが登場する。高校生の頃だ。それまで「モテ」という意味では「笑い」は女子たちの中で地位が低かった。だが、彼らの登場はその風景を一変させた。彼らが仕切る『4時ですよーだ』(毎日放送)の会場である心斎橋筋二丁目劇場は女子たちで溢れかえっていたのだ。
お笑いってこんなにキャーキャー言われるんだ。こんなにカッコよくて、モテるんだ。それはフジモンにとって、青春時代の大きな衝撃だった。次第にこの舞台に立ちたいという思いが強くなっていく。そんなフジモンの思いは意外と早く実現する。『4時ですよーだ』の素人参加コーナーに出演することになったのだ。
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