ユウカ「女なんて使いたくない!」晶「……無意識に使ってるでしょう?」

晶の母親のセツ子の職業は、おみやげ物の卸業者だった。彼女は自分でサンドアートグラスを作っていた。ユウカは借金のかたに、それを受け取り、市場で売ることになった。

午前8時、ユウカは夜通しワインを飲んで語り明かして、どうやらソファで寝てしまったらしい。

「あ、いたたたた」

身体を伸ばすと、ギギギとソファがギシついた。 革張りの立派なソファだが、年代物らしくところどころ傷があり、やや変色し、すでに固くなっている。沖縄の厳しい陽光のせいで痛みも激しいが、そのおかげで風邪をひかずには済んだらしい。

ユウカの身体の上には、タオルケットが掛かっていた。

「あれ、セツ子さん、どこに行ったんだろう?」

ユウカは昨日、夜通し飲んだ相手でもある晶の母親のセツ子を探したが、居間にはすでにいないらしい。 テーブルには6pチーズや、さきいかがカピカピになってテーブルの上にちらばっている。 夕飯のお皿もそのままで、洗わずに放置されている。

キッチンスペースを抜けると、奥にもうひとつ部屋があり、そこで何やら物音がした。

「すいません、セツ子さん、ここにいます?」

何も考えずにユウカが奥の部屋に足を踏み入れると、そこに並んでいたのは、見渡す限りのガラスの小瓶。 棚に所せましと大小さまざまなサイズのガラスの小瓶が整然と並べられていた。

「あー、ユウカさん、おはよう。今日は天気がいいから、朝からアトリエで作業しようと思って」

窓から入ってくる朝日がガラスに入射して屈折し乱反射している。 たくさんのガラスの小瓶が共反射しているので、部屋の中は、他の部屋の何倍も明るい印象だ。

「何を作ってるんですか?」

エプロン姿のセツ子に、ユウカは気さくにたずねた。

「サンドアート、お土産物よ」

見ていると、セツ子はいくつもの色分けされた砂を使って、小瓶の中に詰めていっていた。 青い砂は海、白い砂はヨットと雲、黄色い砂は太陽、緑色の砂はヤシの木。 器用に砂を小瓶に詰めながら、一枚の絵を完成させていく。 小瓶の横から見た時に、”沖縄の海原に浮かぶ、太陽とヨット”になるように……。

「すごい! セツ子さん、天才です! こんなことできるんですか!」

「ユウカさんは、褒め上手ね。こんなの美大の1年生にもできるわよ」

「へー、でも、すごい綺麗ですね」

「でしょう。沖縄のお土産として、ホテルとかで置かせてもらって売っているの」

「そうなんですね。あたしも欲しいかも」

「あ、そうだ。ユウカさん、そろそろお腹減ってるでしょう? 朝ご飯を作るからちょっと待ってね」

ぐぐー。セツ子のお腹がなった。

「あら、どうやら私が一番お腹が減ってたみたい。一度、アトリエに入ると時間忘れちゃうから」

アトリエ部屋の窓辺にはガラスの風鈴もかかっている。

チロリン。風が吹くたびに上品な音を立てる。綺麗なガラスに囲まれて、一心不乱に作業しているセツ子の日常を想像すると、ユウカにはそれはとても素敵な日々に思えた。

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結婚できない2.0〜百鳥ユウカの婚活日記〜

菅沙絵

友人たちが彼女につけたあだ名は「レジェンド・ユウカ」。結婚市場に残された最後の掘り出し物という意味だと説明されたが、たぶん揶揄する意味もある。妥協を知らない彼女が最後にどんな男と結婚をするのか、既婚の友人たちは全員興味深げにユウカさん...もっと読む

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