晶の母親が「フランス人」と、あっさり笑って答えると、そのまま炒めた魚の肉にかぶりついた。
晶がさっさと食べ終わって、自分の部屋に戻ったあと、晶の母は冷蔵庫から「ワイン」を取り出して、「ユウカさん、イケる口かしら?」と聞かれたので、ユウカは「はい、大好きです」と答えた。
リビングで、中華の残りをツマミに白ワインを飲み始めた。
「最近は、ほんとうに私一人で過ごしていて、飲む相手が欲しかったのよ」
「お母さんはおいくつなんですか?」
「お母さんなんてやめてよ。セツ子でいいわよ。今年で44かな、忘れちゃったわ、年齢なんて。 不思議よね、娘の年齢は忘れないのに、自分の年齢は忘れちゃうんだから」
「35過ぎたら、年齢がよくわかんなくなりますよね。そっから年を取らなくなるというか……、成長しないというか。だから私はこれから年齢を聞かれたら35っていつも答えようと思って(笑)。あ、あ、あ、冗談ですよ。こんなこと本気で言ってると思われただけで大バッシングされそうですから」
「いいのよ、人に何て言われようとさ。じゃあ、私も35でいいわ。笑」
晶の母親のセツ子は、生来、人懐っこい性格の持ち主のようで、ワインの力もあいまって、いろいろと話しだした。
セツ子が晶を生んだのは、25歳のこと。
元々、家庭は教師一家で、両親ともに教師だったセツ子は、大学を卒業すると同時に、地元で小学校教師になった。この家は両親、つまり晶の祖父母が建てたものらしい。 毎日、同じ時間に出て、同じ時間に帰ってきて、家族全員で食事をとる。当たり前だけど、大人になったばかりのセツ子は退屈すぎて我慢ができなくなっていったそうだ。
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