何を残して、何を捨てるか」という選択

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
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修羅場のときこそ優先順位を

 頑張って防災対策をしている人は、歴史や地域に興味があり、「地域や人が好きな人」であるように思えます。祭りやイベントが盛んなところは、もともと「共助力」がある地域。逆に、防災が地域を活性化させることもできるでしょう。
 地域のつながりが薄れている都会では、子どもたちに参加してもらうことが効果的です。自分たちが誰かを助ける、誰かの役に立つということには、子どもたちの方が敏感です。ちょっとすさんでいた高校で防災に取り組み、生徒たちを立ち直らせた例もあります。子どもから親、親から地域へと意識が広がっていくはずです。
 ただし、あまり「オタク」的に防災の話ばかりしていると、周りの人に面倒くさがられます。子どもたちにも「これは大事なことだから」と言い聞かせるのは禁句です。子どもは「面白い」かどうかが先。だから私たちも「ぶるる」やプリン実験をはじめとした面白い道具、楽しい教材で引きつける工夫を続けています。

 東北で大人にも子どもにも語り継がれていた「津波てんでんこ」は、津波が来たら家族さえ構わず、一人でも高台に逃げろという教えです。家族や地域を守るために、全員は無理でも、誰か一人が生き残れば家や地域を継承できるという教訓。これは災害時の「トリアージ」の発想に通じます。
 本当の修羅場、カタストロフィーに直面したら、何を見捨てて、何を残すか、いやな言い方ですが、優先順位を付けなければなりません。私も還暦を過ぎましたので、大災害のときには、自分よりは子どもや孫の世代に生き延びてもらいたいと思っています。

 巨大災害では被害をゼロにすることは難しいので、災害波及をどう減らすかという問題も大事になります。東海・東南海地震が先に来たら、南海地震までの間にどうするかが日本の将来を決するでしょう。次の地震が1日後か、1年後か分からないような状況下で、混乱しないような仕組みをどうつくれるか。失敗したら日本は終わりです。家を守る、地域を守るということから、国や世界まで問題意識を広げていく必要があります。

100人が1人力を発揮する社会に

「着眼大局、着手小局」という言葉があります。物事を大きな視点から見て、小さなことから実践するという意味です。これを防災に当てはめれば、大局的に災害被害軽減のための戦略を考え、身近なところで具体的な実践を積み重ねること。私の好きな言葉で「全体最適」や「有言実行」「Think globally, act locally」の姿勢にも通じます。
 過去の歴史からみて、南海トラフ地震が将来、絶対に起きることは大前提。「温故知新」で、今後に備えるしかありません。「いつ起こるか分からないから」などと言っているのはただの現実逃避です。できることは身近なところからすぐに始める。起死回生の策なんてありません。一つ一つの対策を足し算していくことが、被害を少しずつ引き算していくことになります。

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次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

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