往復10メートル」も揺れるスカイツリー

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
ホンネがホンキの対策を生む! 話題の書籍『次の震災について本当のことを話してみよう。』のcakes連載版!

※これまでのお話は<こちら>から。

実感すれば人は変わる

 私の知り合いのある放送局の幹部は、東日本大震災のとき、東京の自社ビルの高層階にいてけがをしました。緊急地震速報を見に行ったら、機材の置いてある棚が倒れてきたそうです。その棚は家具止めがしてありませんでした。「3・11」のときに東京の高層ビルで、実際にけがをした人は他に知りません。
 この放送局は、地盤の良い台地にあります。それが東北の揺れでこのありさまですから、首都直下地震ではどうなってしまうのでしょう。この幹部は素晴らしい方で、大いに反省し、「次の地震のときには一番安全な放送局にしよう」と、会社全体で家具止めを徹底させたり、建物に制震ダンパーを入れたりするよう指示してくれました。
 私はテレビ番組に出演するとき、いろいろな装置を使って長周期の揺れを再現します。十数年前、名古屋のある局で女性アナウンサーに台車の上に乗ってもらって、左右から綱引きのように引っ張り合って往復3メートルの幅で揺すりました。後ろに超高層ビルの風景をCGで映し出して、「これが長周期の揺れだ」とやったわけです。

 東京スカイツリーの構造設計者と会ったときは、一緒に揺れを体感しようと、スカイツリーの展望台の上まで行って一緒に全力疾走しました。
 スカイツリーが建つ地盤の周期は10秒前後、展望台の揺れは往復10メートルくらいなので、2人で一緒に、往復10メートルを10秒で何度も往復しました。幸か不幸か曇天で見晴らしがよくなかったので、外の風景を見ながら走ることはできなかったのですが、息が切れました。周辺の人たちは不思議そうに私たちを見ていました。一緒に走った構造設計者もびっくりした顔でした。同じようなことは、これまでにいろいろなビルで何度もやってきました。多くの設計者は、計算はしているのですが、計算した数字を現場で実感することはほとんどないからです。

 講演会などでも、私は舞台の上で、萩本欽一さんがやっていた「欽ちゃん走り」をして長周期の揺れを再現します。キャスター付きの机が使えたら、主催側の担当者に机の上に立ってもらい、机をグラグラ。「足を広げて踏ん張ってみて」と指示すると、上に乗っている人は揺れませんが、「足をそろえて手を挙げて」と言うと簡単に揺さぶられてしまう。これは「超高層ビルのポーズ」です、と。
 次に「揺れに合わせて足をふにゃふにゃ動かして」と言うと、また体は揺れなくなります。これは「免震構造や制振構造」の原理。こんなふうに体を使って説明すると、よく分かってもらえます。

 講演の前には早めに会場へ行き、建物の玄関にある定礎に彫り込んである建築年代を見て、1981年以前の建物かどうかを調べます。そして基礎周りの地盤沈下やクラックなどをデジカメで撮影。さらに、講師控え室の家具固定されていないロッカーをパチリ。そして事務室もついでにパチリ。パソコンに取り込んでおいて、講演が始まると真っ先にその具合の悪いところをプロジェクターで映し、「こんなところで講演させるなんてマズイ人たちですね」とチクリとやります。
 そんな「主催者いじり」は、皆さん当事者意識を感じて喜んでくれますし、主催者の対策誘導にもとても効果があります。多くの場合、後日、対策結果をメールしてくれます。

 人に嫌われる言いにくいことを言う。それをできるだけちゃめっ気たっぷりに。最近は、なかなかそれができにくい社会になっています。私もプレッシャーは多々感じていて、いろいろな人たちから「そんなことを言ってくれるな」と叱られることもあります。そのうち刺されるかなと心配もしますが、「言ってくれてありがとう」と感謝されることが多くあります。だから私は、元気なうちはちょっと嫌われる「おせっかい役」をできる限りやっていこうと思っています。

「予知」は完璧でなくていい

 今、さまざまな分野が細分化しすぎています。学者も研究分野ごとに狭い世界で張り合い、論文書きや予算の取り合いをするばかり。その弊害もあって混乱しているのが「地震予知」の問題です。
 昔から地震にはさまざまな予兆があると言われてきました。1975年に中国・遼寧省の「海城地震」で前震をもとに予知ができたという話があり、日本でも東海地震に対する予知態勢を整備。1978年に大規模地震対策特別措置法(大震法)ができました。
 私は、当時の社会情勢を考えるとこの法律の制定自体は悪くなかったと思っています。しかし、制定から40年近くが経ち、地震の物理やメカニズムが明らかになるとともに、予知はそんなに単純なことではないと分かってきました。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ベストセラーの『次の震災について本当のことを話してみよう。』が投げかけたすべての問題の徹底・本格解決編!

この連載について

初回を読む
次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード