海に降る雪コーヒーにグラニュー糖水面に消える届かぬ思い
三年付き合った彼から、エチオピアに行き現地の女性と暮らすことになったと手紙が来た。彼はフリーのジャーナリストだから、現地のことを深く知ろうとして一時深入りしているだけなのだろうと、ほとぼりが冷めるのを待っていた。
それから二年が経った。彼から家族写真が送られてきた。手紙には「ジャーナリストは廃業し、エチオピアに学校を作ることにしました。この国に骨を埋めます」。
わたしはエチオピアには行ったことがない。アフリカの、中央東。砂漠があり、紅海の近く、ソロモン王とサバの女王の物語……。あの魅力的過ぎる彼が骨を埋めることを決めた土地に嫉妬した。
わたしはネットショッピングのサイトで「エチオピア」と入力した。とにかく何らかのエチオピアを手に入れたかった。
「エチオピアクロス」以外はほとんどが「エチオピア産コーヒー」だった。
一万五千円のエチオピアクロスのペンダントを二十個と、エチオピア産コーヒーの粉を買えるだけ買った。
わたしは独特なエチオピアクロスのペンダントを首から二十個かけ、エチオピア産コーヒーを飲みつづけた。宗教めいた崇高な首の重みと香りと味だった。このままわたしがエチオピアになれば、彼は戻ってくるかもしれない。部屋の隅までエチオピア産コーヒーのアロマが染みていく。
それから十年が経った。
彼の親族から、彼がエチオピアで亡くなったことを知らせるハガキが来た。
わたしの部屋の中は、十年間毎日コーヒーを淹れた粉が、捨てずに乾ききったまま積まれていた。
ここがエチオピアの砂漠だった。
彼の骨が、砂漠の間に見え隠れしている。
陶製のシュガーポットの中は砂丘人魚は王子様を探してる