死ぬかと思った。オープン前もオープン後も。やっと終わったと思ったら始まったばかりだった。というのが新店舗がオープンした時の気持ちです。全然嬉しくないし、全然おめでたくないというのが正直なところでした。自分でもびっくり。もっと満足感に包まれるのかと思ったけれど、そうでもなかったです。
エントランスには6mを超える型染めの暖簾をかけた。
おめでとうがしっくりこない
店のオープンと同時に花や贈り物が方々から届いた。取引先からお客様、意外な人から次から次へとおめでとう。ありがたい気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになりつつも、「そんなに、おめでたいのかなぁ?」という気持ちも湧き上がってくる。
「わざわざ」を営んで10年が経過した。店を開けたことがゴールではないことが身にしみてわかっていたから、これから苦しみが始まるんだろうなという後ろ向きな気持ちしかなかった。とりあえずオープンできただけ。いつだってそう、わたしはいつだって暗くて後ろ向きだ。
暖簾をくぐると、巨大なアメリカのアンティークの家具が出迎える
そんなこんなでオープン当日は、賄いを食べている最中に気持ちが悪くなってしまい、それでもコーヒーを入れ続けていたら、途中で吐き気をもよおして、立って居られなくなってしまった。オープンから数時間経った頃にはみんなに謝りながら店を退出。車で2時間寝るという失態をおかしてしまった。
身体中から体温が奪われたような気がして、苦痛で全身が覆われてしまった。それくらい限界で、気持ちがギリギリで辛くて辛くてたまらなかった。もうやりたくない。おめでたくない。笑。本当にダメ人間である。いつもそうなんだけど気持ちと体が一体化していて、気分が全部体に出てしまう。隠せない。行き過ぎた正直も全くやっかいなのである。
ただセレクトの基準が違うだけ
みんなはどうか知らないけど、わたしはいつだって自信がない。自己肯定感が異常に低いのかなんなのか、やればやるほど自信がなくなっていく。やるということを続けていると必然的にさらにやる人に出会うことになる。そうすると毎回、自分の不甲斐なさが目に入りもっとやらねばならないと自己嫌悪に陥ってしまう。
今回の新店舗オープンに際しては、全力を尽くしたつもりだった。全国を仕入れで周り、今まで培った10年に出会った人々に協力していただいて、今できる精一杯を詰め込んだつもりだったし、思案しつくして全部を出し切ったつもりだった。
わざわざのカンパーニュで無添加ソーセージを挟んだホットドック
店が完成に近づいて、いざオープンをする段階になって、我ながらいい店を作ったなと周りを見渡した瞬間に絶望が襲ってきた。
「なんだ、ただセレクトが違うだけのセレクトショップじゃん」
人と違う基準で人と違うセレクトを施しただけで、所詮はセレクトショップの枠を出ることはないことに気がついて、絶望が襲ってきた。
こんなに走り回ってセレクトショップ作ったんかい!と自分が嫌になってしまった。もっと大きなことをやってるつもりだったし、もっと大きな夢を語ってるつもりだった自分が恥ずかしくなった。ただセレクトしただけ。つまんないことやってるなと思ってしまったら、辛くて泣きそうになった。
間違いなくいい店だと思う。コーヒーもすこぶる旨い。
かつての店という概念を超えてみたい
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