クマを叱りつけて退散させた雷親父

春先は冬眠明けの熊が街中に出没して、しばしばニュースになります。熊が生息する山の中にある山小屋にとって、熊は当然身近な存在。そんな山小屋では熊とのトラブルを回避するためにさまざまな対策を施していたと、10年間山小屋で働いていた小屋ガールの吉玉サキさんは語ります。

春先は熊出没のニュースをよく目にする。熊が冬眠から目覚めるからだ。

山の麓の町で「通学路で熊が目撃されました。登下校には保護者が同行しましょう」という張り紙を見かけ、ギョッとしたことがある。都会に住んでいると現実感がないけど、山の近くに暮らす人にとって、熊は身近な存在のようだ。

もちろん山小屋にとっても、熊は身近な存在。私がいた山でも熊の目撃情報は多く、熊にまつわるエピソードには事欠かない。

山小屋歴の長いスタッフは一度は熊を目撃しているけど、私はなぜか、一度もお目にかかれなかった。


登山中、熊に遭遇したら……?

山にはいろいろな動物がいる。

私が見たことがあるのは、雷鳥、オコジョ、猿、ヒメネズミ、カモシカ。

ちなみに「カモシカのような脚」という比喩があるけど、カモシカの脚は本当に引き締まっている。顔はぼんやりしてるけど。

しかし、山でもっとも話題に上るのはなんといってもだ。

一般的に、熊は臆病と言われている。人間の気配を察知すると逃げる。そのせいか、山小屋のすぐ近くに熊が出ることはなく、目撃情報は「遠目に見た」というものばかりだ。

かといって油断はできない。熊は人間を察知すると逃げるけど、出会い頭にばったり遭遇するとテンパって人を襲うこともあるそうだ。

だから、山を歩くときは熊に「人間いますよ」アピールをし続けないといけない。多くの登山者はザックに熊鈴をつけたり、ラジオを携行したりする。

以前、水場のエンジンに熊の爪痕が残されているのを夫が発見した。

やばい、ばったり遭遇するかも……。

そう思った私は、夫と水場に行くことになったとき、「熊鈴だけじゃ熊が気づいてくれないかもしれないから大声で歌おう」と提案。ふたりで歌いながら険しい山道を歩いた。傍から見ればずいぶん陽気な登山者だろう。

ちなみに、私はなぜかゆずの『夏色』を選曲してしまったため息継ぎが大変で、水場に到着する頃にはバテバテだった。

音声で熊を遠ざけるのがベストだとは思うけど、万が一遭遇してしまったら撃退するしかない。

その万が一に備え、スタッフは上下山の際に「熊スプレー」を携帯する。唐辛子エキスで目と鼻が猛烈に痛くなるスプレーだ。熊に遭遇したらこのスプレーを噴射する。

しかし、熊を撃退できるスプレーは当然、人間にもその凄まじい威力を発揮してしまう。

以前、支配人が小屋の中で熊スプレーを落としてしまい、微量だけど中身が噴射されて大騒ぎになった。スプレーを吸い込んだスタッフたちはしばらく咳きこんで涙が止まらず、大変だったようだ。

はからずも、熊スプレーの効果が実証されたのだった。


山小屋の熊対策!「熊番」とは?

さっき「山小屋のすぐ近くに熊が出ることはない」と書いたけど、それは私の知る限りの話で、以前はけっこう熊が接近していたらしい。

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小屋ガール通信

吉玉サキ

第2回cakesクリエイターコンテスト受賞作! 新卒で入った会社を数ヶ月で辞めてニート状態になり、自分のことを「社会不適合者」と思っていた23歳の女性が向かった新天地は山小屋のアルバイト。それまで一度も本格的な登山をしたことのなかった...もっと読む

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コメント

saki_yoshidama みんなけっこう熊を見ているのだけど、なぜか私は一度も見たことがなかった。 5ヶ月前 replyretweetfavorite