“じぇじぇじぇ”より“ゲゲゲ”! 夏は怪奇マンガで涼をとる

作家の海猫沢めろんさんが、谷根千での暮らしを綴りつつ、日々読んだマンガを紹介する月イチ連載がスタートします。記念すべき第1回は、夏といえばホラー、ということで、怪奇マンガづくし。海猫沢さんは、一体どんなマンガで涼をとっているのでしょうか? 誰もが知っているあのマンガ家から、先物買いしてほしい新星まで、海猫沢さんのセレクトに注目です。

今年の夏は千年に一度の猛暑!

……などといわれていた割には7月現在、けっこう涼しい日が続いている昨今、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

東京に来てから夏がこんな涼しいのは初めてではないだろうか? 以前住んでいた阿佐ヶ谷の家の寝室には、クーラーがなくて、昼まで眠っていると部屋がサウナ状態で、呼吸すら困難なほどだった。ある日、意地になって眠っていると回転性のめまいと吐き気におそわれ動けなくなったので、仕方なくそのまま夜まで寝た。死ぬかな? と思ったら、起きたら治っていた。調子が悪いときはやはり寝るに限る。

そんなぼくは現在、阿佐ヶ谷から流れ流れ、貧乏生活の末に谷根千あたりに住んでいる。

このあたりはぼくが好きな東京の雰囲気がまだ残っている。谷中霊園、谷中銀座、夕焼けだんだん、喫茶乱歩、最近できたひみつ堂の絶品かき氷。そして、なんといっても全生庵の幽霊画だ。この幽霊画を見ると、毎年、夏を実感する。そういえば子供の頃、夏休みは幽霊や妖怪の話で背筋を冷やして涼をとったもんだな……なんてことを思い出した。

というわけで夏のまっただ中、日常雑記+読んだ漫画の話をしろという編集部の依頼で始まったこのコーナーですが、記念すべき第一回目に紹介するのは、散歩帰りに往来堂書店で買ってきた水木しげる先生の『水木しげる漫画大全集』。

ゲゲゲの鬼太郎(1) (水木しげる漫画大全集)
ゲゲゲの鬼太郎(1) (水木しげる漫画大全集)

じぇじぇじぇじゃない。ゲゲゲだ。

水木しげるといえば……って、今更なにか説明を付け加えるようなことはひとつもないので省略(自由にググってください!)。

水木漫画は数え切れないほど刊行されているが、今回はなにせ大全集である。すごい。なにがすごいって、今回の監修は水木マニアの京極夏彦。第一期が33冊。全部で108冊になるかも……という噂もあり、大全集と呼ぶにふさわしいボリュームだ。。原稿は改稿される前のオリジナルを収録。現在では差別語にあたるため、文庫版では改変されていたネームも元通りに。当時の二色刷も再現。巻末資料には改変前のコマや絵などの説明等が入っている。全集につきものの小冊子も付属(詳しくはサイト参照)。

6月の第一回配本は『ゲゲゲの鬼太郎 1』『忍法秘話 全』『不思議シリーズ 全』

7月の第二回配本は『貸本版 河童の三平 上』『世界怪奇シリーズ 全/サラリーマン死神 全』

ぼくは水木漫画の熱心なファンというわけではない。もちろん子供の頃は鬼太郎が大好きだったし。田舎だったので山に妖怪ポストを探しに行った。だけどそういうのは当時の子供なら普通にやっていることだ。大人になって、阿佐ヶ谷に家を借りたときは玄関に妖怪ポストを設置したが、それもちょっとしたシャレだった。リボルテック鬼太郎を買ったのは竹谷隆之の造形があまりにもすごすぎたためであって、水木信者だからじゃない。だが、そんなぼくでも久しぶりに曰く言い難い異様なトリップ感を味わった。やっぱスゲエ……他の漫画とは一線を画すこの独特の読み味。これは一体どこから醸し出されているのか?


以前住んでいた阿佐ヶ谷の家。ドアの横に妖怪ポストが設置されている。

全集の『ゲゲゲの鬼太郎 1』を何度か読んでいて気づいたのだけど、水木漫画は起承転結の「承」がやたら長い。「承」部分が重要なのはどんな物語にも言えることだが、水木漫画の場合は他の部分を犠牲にしてまで「承」を長くしている。そのせいで「結」の扱いがかなりぞんざいだ。ラストにいくほどコマが小さくなり、最後は文字で説明して終わり! みたいなときもある。洗練されたドラマを見慣れていると、このリズムには違和感を覚えるだろう。物語を作るとき、だいたいの人は最後のオチをうまく見せようとする。ところが水木漫画の最後のコマは、あくまで便宜上のものだ。この世界に耽溺しているのが心地よい……できれば終わらないでほしい……あ、頁数がもうない……結末がないと収まらないからつけとくか……。という感じ。この生理にまかせた自然なユルさと投げっぱなし感が味になっており、他にはないリズム感をかもしだしている。

A5判2千円前後という、場所とコストをとりまくるこの全集、どこまでついていけるかわからないが、見守りたいところだ。

で、ちょうど『水木しげる漫画大全集』の刊行が始まったのと近い時期に、もうひとり、ある怪奇漫画家が注目された。

漫画家生活36年を迎えた高橋葉介である。この人も日本の怪奇漫画という点では外せない。6月に刊行された河出の別冊文藝総特集『高橋葉介』は、新作書き下ろし1本、単行本未収録作品4本、対談、インタビューなど盛りだくさんの内容。ブラックウッドの『ジョン・サイレンス』シリーズを参考にしたストーリーテリングはさすがに洗練されている。水木漫画と読み比べると、物語のリズムの違いがわかるだろう。詳しくは言えないが、じん(自然の敵P)の「カゲロウデイズ」が好きな人には本書収録の「オセロ 〜白と黒〜」もきっと気に入ると思うので読んでほしい。高橋先生の描く女の子は相変わらず可愛いです。

高橋葉介 怪奇幻想マンガの第一人者 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)
高橋葉介 怪奇幻想マンガの第一人者
(文藝別冊/KAWADE夢ムック)

さて、水木しげると高橋葉介、強引に並べてみたが、このふたつの作品を悪魔合体させて、なおかつ超進化させたような異色の新人作家が存在する。

それが、ぼくがいま一番期待している漫画家、阿部洋一である。現在3巻まで刊行されている『血潜り林檎と金魚鉢男』は、「畳のにおいがする吸血鬼もの」これぞ水木しげる遺伝子の最新進化系!

血潜り林檎と金魚鉢男(1) (電撃ジャパンコミックス)
血潜り林檎と金魚鉢男(1)
(電撃ジャパンコミックス)

タイトルだけでごはん3杯は軽くいけるので、内容は説明しません。買って読むべきものです。とにかく買ってください。ぼくは紙と電子書籍、両方買いました! 一体何者なのか? ものすごく気になって調べてみると、総合マンガ誌『キッチュ』という同人誌でインタビューが掲載されているではないか! さっそく中野のタコシェで取り寄せて読んでみたところ、京都精華大学のマンガ学部の第一期生だったらしいということが判明。詳しくは取り寄せて読むべし。前作『バニラ・スパイダー』はSFホラーというか、遊星からの物体Xをエヴァンゲリオン風にしてなおかつギャグをまぶしたようなカオスな作品。これはマジで傑作なので3冊買わなければいけない。買わなければ呪われます。処女作の『少女奇談まこら』も全部買っておけば、この夏はきっと涼しくすごせることでしょう。クーラー代より安いし。

そんなわけで、来月はもうちょっと普通に日常とマンガの溶け合ったゆるふわエッセイになる……予定。そろそろ漫画喫茶に行ってなくて読みたい漫画が溜まっているので、量の限界に挑戦してみたいと思います。ではまた。

ケイクス

この連載について

マンガは読書に入りますか?

海猫沢めろん

作家の海猫沢めろんさんが、谷根千での暮らしを綴るとともに、日々読んだマンガを紹介する月イチ連載。小説の執筆からアイドルの曲の作詞まで、縦横無尽に活躍する海猫沢さんのセレクトは、次に何がとびだすかわからない幅広さ。手に取って読めば、新し...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

uminekozawa 【マンガは読書に入りますか?】 3年以上前 replyretweetfavorite

uminekozawa 【マンガは読書に入りますか?】 3年以上前 replyretweetfavorite

uminekozawa 【マンガは読書に入りますか?】 4年弱前 replyretweetfavorite

uminekozawa 【マンガは読書に入りますか?】 4年弱前 replyretweetfavorite