車はハイウェイに乗ると、ぐんぐんとスピードをあげた。
晶は後部座席でうんうん唸っているけど、おそらく演技なのだろう。 しかし、おじいさんはアクセルを目いっぱい踏んで、一路、沖縄市に向かっている。
沖縄は、那覇市が県庁所在地だけど、実は別に沖縄市という自治体もある。 昔はコザと呼んだらしいけど、ユウカはもちろん知らない。 米軍基地からも近く、那覇よりも国際色豊かで、より沖縄っぽい街並みが広がる。 アメリカ人や中国人に加えて、なぜかインド人も多い。
ハイウェイを沖縄南で降り、基地の米軍人向けの店や観光客向けの店が混在しているエリアを抜けると、さとうきび畑と住宅しかない田舎道に出た。
後部座席の晶は、お腹を抱えながら「ここは右、まっすぐいってから左」と正確に道案内をしている。
やがて、一軒の石造りの家の前に軽ワゴンは着いた。 晶は車から降りると、さっと家の中に小走りで入っていき、車の中にはユウカと老人が残された。
老人が「じゃあ……」と言おうとした瞬間、身の危険を察知したユウカもさっと車を降りて、家の中にかけこもうとしたが、ふと踏みとどまって振り返り「よかったら、おじいさんも……」と運転席に向かって手招きした。
ここまでタダで運転してきた老人のことが哀れに思ったからだった。
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