キャラクター同士が反応したら、メモる
北野唯我(以下、北野) かっぴーさんは、物語のプロットはどうやって作られてるんですか?
かっぴー 僕はまず文章ですね。というか、ほとんど文章で固めますね。スマホで書いて、それを全部Evernoteに上げて。
北野 すごい。ちなみに僕も原稿は全部スマホで書いています。
かっぴー 小説を? そっちのほうがすごくないですか?
(以下、お互いのスマホを見合いながら)
北野 これは……セリフを書き出してるんですか?
かっぴー そうです。散歩しながら、なにか浮かんだら立ち止まってセリフベースでバーっと打ち込んで。
北野 フォントサイズが大きいのは、重要なセリフだから?
かっぴーさんのスマートフォンのメモ画面。ところどころ字が大きくなっているが……。
かっぴー いや、全然重要じゃないです。ただ難しい漢字が混じってるから。
北野 なるほどね、画数が多かったりすると小さい字じゃ見づらいですし(笑)。
かっぴー 間違えるといけないんでね(笑)。
北野 こういうセリフのストックを、あとで繋げていくんですか?
かっぴー そうですね、家に帰ってからパソコンで。ただ、その段階では話の順番通りに思いついてるわけじゃなくて。たとえば光一とみっちゃんの会話の内容が浮かんだらそれをメモしておくんですけど、その会話が実際に劇中で交わされるのは、15話先だったりします。だから次の話数のことを考えてるわけではなくて、頭の中に浮かんだ会話を「これ、いつ使おうかな」って考えてる感じ。
北野 その会話って、感情と感情の衝突みたいなシーンが多いんですか?
かっぴー そういう解釈もできますね。別に激しくぶつかるだけが衝突じゃなくて、摩擦や交差のような衝突もあれば、互いの感情がフィットして合流するような衝突もあると思っていて。だからバトルという意味での衝突ではなく、化学反応という意味での衝突です。
北野 キャラクター同士が反応し合ったらそれをメモると。
かっぴー そう。頭の中に「アメーバピグ」みたいな箱庭があって、こっちで誰かと誰かの話が盛り上がってるとか、あっちでは出会うはずじゃなかった二人がなぜか絡みだしたとか。あるいはキャラが分裂することもあって、たとえばみっちゃんが喋ってると思ってたら、みっちゃんが言わなそうなことを言いだして「あれ? こいつみっちゃんじゃなくない?」ってなることもあるんですよ。そういうときは「これは成長したみっちゃんの発言なのか、それとも別のキャラなのか」みたいに考えて、別のキャラだと判断したら新しくキャラクターを作ったりもします。
世に蔓延する、わかりやすさ至上主義
北野 対談の第4回でもお話ししたように、僕も物語を作るときはセリフベースで考えるんです。だからまずキャラクター同士を喋らせるんですけど、喋らせた結果、自分の思い描いていたプロット通りに話が進まなくなっちゃうことがあるんですよね。たとえばAというキャラクターならこう言うだろうと思っていたけど、全然言ってくれなかったり。あるいはプロット上はBというキャラクターにこういうセリフを言ってほしいんだけど、そのセリフが実はBの性格や思考に即していなかったり。やっぱりキャラのほうにセリフを合わせないと、セリフが死んじゃうじゃないですか。そういうときって、どうするのがいいんでしょう?
北野唯我さん
かっぴー 僕が「左ききのエレン」で使ったのは、結果から描くっていう手法ですね。急に時間が数年後に飛んだり戻ったりするアレです。結果から描いているぶん、過程にズレが生じにくいというか。
北野 なるほど。たしかに時系列を操作できるのは小説や映画でも同じだけど、マンガだとよりわかりやすく描けるかもしれませんね。
かっぴー でも、時系列をいじりすぎるとなにが起きているのかわからないっていう読者の方も多いです。それに関しては、もうわからなかったらしょうがないな、と諦めるしかないのかなって。
北野 わかりやすさって、難しいですよね。自分は作者として、物語の展開もキャラクター設定も熟知しているだけに。かつ、世の中的にはわかりやすさ至上主義みたいなものが蔓延している感じが依然としてあって。
かっぴー 今の世の中のコンテンツは、わかりにくいことを忌避しすぎているというか……そもそも僕はわかりやすいものが正しいみたいな感覚がよくわからないんですよ。極端な話、世の中にわからないことは山ほどあるのに、自分のわかる範囲でしかものを見ていなかったら、それは極めて視野狭窄ですよね。もちろん、マンガという娯楽にわかりやすさを求めることは至極当然だと思うんですよ。僕もわかりやすい少年マンガは大好きですから。その一方で、今はわからないけど、いつかわかるかもしれない作品も大好きなんです。
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