前回の記事では「自動思考」と「認知の歪み」という概念を紹介しました。悩んだ時に「自動的」に湧いてくる悩みの「パターン」を認識することが、心の課題解決のきっかけとなります。
では、その解決に向けて具体的には何をやっていけばいいのか? そこで重要となるのが「コーピング(Coping)」という考え方です。コーピングとは簡単に言うと「ストレスへの対処法」のことです。
昔の私のように常に不安に苛まれている人でも、そこから逃れようとなにかしらの「対処」を試みています。例えば、悩みを友人に相談したり、気晴らしに飲み会に行ったり。こういった対処法のことをコーピングと呼びます。
認知行動療法ではこの「コーピング」がとても重要です。いままで見てきたように、自分の悩みの特徴を「可視化」して、その傾向やクセを掴んだ上で、それに「どう対処していくのか」の方法論(コーピング)を身につけることこそがゴールだからです。
自分の「ストレス対処法」を書いてみよう
では具体的にどうやるのか? まずは、私の例を使って見てみましょう。
右下の部分の「コーピング(対処)」というところに、仕事が終わらずパニックに陥っていた私が取った「対処法」を書き込んでいます。
まず、「どうしようどうしよう」と不安に陥った時にいつも私がやっていたのは、ネットサーフィンです。厳しい現実を見据えることができない時に、mixiやはてなダイアリーといったサイトをひたすら巡回しながら現実逃避することがよくありました。この場面でも、襲いかかる不安から逃れるように、まずネットサーフィンして気持ちを落ち着けようとしています。
さらに、少し気分を変えようとしてコンビニに夕飯の弁当を買いに行っています。そこで大好きな「キットカット」も買うことですこし気分は和らぎました。
加えて、彼女にメールを送っています。彼女は海外出張前に私がいつもパニック気味になることをよく知っていましたから、私もそこにすがるように不安を書き連ねたメールをよく出していました。
この私の例のように、すぐ悩んでしまう人でもなにかしらの対処はしています。ただ、読んで分かると思うのですが、その対処法は本質的な解決策からはほど遠いです。
ネットサーフィン、コンビニへの買い物、彼女へのメール、これらのどれもが「現実逃避」型の対処法です。仕事が終わっていないという不安から逃れようとしていますが、本質的な課題である資料作りが終わっていないという事実は変わりません。
例えば、いまの私ならこういう状況に置かれても以下のように対処できます。
昔の私と違って、いまの私は「まだ日曜日も仕事する時間あるな」とまず状況を俯瞰的に眺められますし、「もし終わらなくても飛行機の中で仕上げすることもできる」とうまくいかないケースへの対処法を現実的に考えられる余裕も持てます。
さらに、大好きなラーメン屋に行って落ち着こう、という自分の好みを踏まえた上での行動も取れます。これは、切羽詰まってとにかくなにか食べるものだけでも確保しようとコンビニに駆け込んでいた昔と大きく違います。
そして、さっさと寝てしまって日曜日に頑張ろうと現実的な「対処法」を実行できます。不安でいっぱいになって疲れた状況では生産性も上がらないしな、と冷静に考えられるからです。
このように、同じストレス状況に置かれたとしても、自分に合った適切な対処法を取れるならば状況を解決に導くことが可能です。ここが最も重要な部分で、まさに認知と行動を変えることで、主体的に悩みを解決できることが、過去と現在の私のコーピング例を比べてみることで理解できると思います。
日常的に悩みをメモするためのコツ
こうして「ストレス状況」「認知」「気分・感情」「身体反応」「行動」そして「コーピング」と、自分の悩みを構造的に捉えて、それを可視化することができるようになりました。これを認知行動療法では「アセスメント」と呼びます。
次のステップとしてはこのアセスメントを日常的にやってみることが重要です。まずは自分の悩みの瞬間を書くことを習慣にして、そのメモから自分の悩みの傾向やクセをつかみ、うまくコーピングできるようになるための「練習」をする、というのが基本的な流れです。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。