「ゆうどきネットワーク」では、ラーメン「まことや」のラーメンも紹介された。このラーメン、3月は750円だったが、4月に缶詰が経堂に届きはじめてからは、1杯1000円に値上げして全額寄付という復興支援ラーメンなのだった。この売り上げを店主の北井さんから受け取ったのは、5月17日のことだった。
「たくさん食べて頂いたので、トータル50万円集まりました!」全額寄付ということは、その分、店の売り上げが減るということだ。なかなかできることではないが、熱い男、北井さんらしい支援だと思った。
4月の後半から、イベントで缶詰を販売する動きが目立ってきた。演芸プロデューサーの木村万里さんは、下北沢のお笑いライブ「渦」で販売してくれた。ここでの売れ行きはすごく、午前中にまとめて買いに来たスタッフが、夕方になって「昼の部で売り切れてしまって」と、午後、再び夜の部用にまとめて買いに来た。また、木村さんのつながりで情報が広がり、「師匠に買ってこいと言われまして」と、立川志の輔さんのお弟子さんが駆け込んで来たこともあった。
「さばのゆ」の常連でもある寄席囃子の恩田えりさんは、彼女が参加する落語会の受付で、積極的に販売してくれた。
その後、落語会での支援も広まり、石巻の日和山で落語家になる決意をしたという経験を持つ「笑点」メンバーの林家たい平さんも木の屋を応援。「鯨大和煮缶」のラベルをデザインするなど、木の屋社員との親交も深めていった。同じく「笑点」メンバーの林家木久扇さんも、「クジラ食文化を守る会」にて販売を応援。のちにラベルのデザインも手がけた。
毎週末、木の屋の缶詰売場を設けてくれる道の駅などの施設も増えてきた。缶詰洗いに集まった人たちが、販売ボランティアとしても応援に駆けつけた。
モンスターボランティアがやって来た!
缶詰を買いたい人やボランティアをやりたい人が、ご近所だけではなく全国から大勢集まってきた。そのほとんどは善意の人たちで、活動を助けてくれるありがたい存在だったが、中には、困った人もいた。
当時私は、缶詰の販売、缶詰洗いの手配と段取り、支援物資の確保と輸送車と人員の手配、ブログやSNSによる情報の発信や問い合わせ対応、マスメディア取材の対応などに忙殺されていて、振り返ると、いつも時間はなく、心身共にギリギリだった。しかし、そんな時に限って、様々な「人災」が起きるのだった。当時は大変な思いをしたが、今となっては笑えるエピソードが多いので、昭和の深夜ラジオ風に「復興活動でこんな困った人がいた!」コーナー的にご一読頂きたい。
缶詰を購入する際のお金のやりとりについて、かなり変わった女性がいた。年齢は30代半ばくらい。缶詰を10缶購入したいというので、3000円という値段を告げると、「震災復興で大切なのは、人と人とのご縁だと思います。なので私は、お代をすべて5円玉でお支払いいたしまーす!」と高らかに叫んで、中で小銭がジャラジャラ鳴る音がする布製の袋を取り出して、5円玉をカウンターに並べはじめたのだった。
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