八月のソーラーパネルが集めたるハチミツ一匙紅茶に落とす
年が明けて間もなく、町のスーパーからハチミツが完全に消えた。
コンビニからもドラッグストアからも。
「ハチミツ」とネットで検索しても、記事は出てくるが商品が出てこない。
蜜蜂が不足しているというのは、数年前から話題になっていた。それゆえ養蜂家やイチゴ農家が廃業に追い込まれていると。
わたしは、生き延びるために毎日ハチミツの摂取が必要な、難病を患っている。
患者仲間の御園さんが、メールでカナダのイエローナイフに行こうと誘ってきた。そこに蜜蜂が集まっているから、ハチミツが手に入るかもしれないというのだ。
近くで実際に見るイエローナイフのオーロラは、金色だった。よく見る緑がかった電磁波色ではなく。
現地のテレビ番組によると、この星のすべての蜜蜂がこの場所に引きつけられ、ほとんどがたどり着けずに命を落としているという。
たどり着いた幸運な蜜蜂たちは、上空から命を賭してハチミツを分泌し、オーロラの色を変えて見せているというのだ。
金の幕は夜風を受けて震え、鉄琴の音色で綺羅綺羅と旋律を放つ。
わたしは、近づいて幕に手を入れる。ねっとり濡れた手を戻すと、両手は輝く液体で満ちている。舌先で嘗めると、月下美人の香りの、未知の金属色の、とろとろした甘い郷愁のようなハチミツだった。
体じゅうの体温が、二度上がった。
生まれてからずっと片思いだった人と、一瞬だけ両思いになれたような、そんな火照りだった。
ハチミツは魂のエネルギーになり体が死んでも金色に光る
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