世界を「声」で認識する男、「感情」で記憶する男

cakesにて「左ききのエレン」第二部を好評連載中のかっぴーさんと、著書『天才を殺す凡人』が発売3ヶ月にして9万部のベストセラーとなっている北野唯我さんによる対談。第4回前半のテーマは、天才同士のバトルについて。後半では、お二人のユニークな世界の捉え方について語っていただきました。


左:北野唯我さん 右:かっぴーさん

天才同士のバトルは、膨らまない?

北野唯我(以下、北野) かっぴーさんは、ライバルの存在をどう捉えていますか? より具体的にいうと、例えば天才同士のライバル対決みたいなものは、お互いにどういう影響を与えると思います?

かっぴー ああー。

北野 そこって、僕が『天才を殺す凡人』では書けなかった部分なんです。つまり、天才と秀才と凡人それぞれの人間関係の力学を明らかにすることに重きを置いていたぶん、天才同士が出会うことで起こる反応については言及していないんですよ。「左ききのエレン」でいえば、たとえばエレンとあかりのような関係を、どう捉えています?


(「左ききのエレン」21話より)

かっぴー あの二人の関係は、いわゆるバトルではないんですよね。画家とモデルの出会いであって、画家のエレンには「描きたい」という反応が起こったという。仮にこれをバトル、ないしは才能の衝突という意味で見直すのであれば、本来ならエレンに「描きたい」と思わせたあかりの勝ちなんだけど、そのエレンの「お前を描かせろ」という言葉に服従しちゃって「…はい」としか言えない点で、あかりは負けている。だから結局、二人とも負けてるんですよね(笑)。

北野 なるほど(笑)。

かっぴー 出会ってしまった二人がどっちも負けて、それを光一にかき回されるという。でも言われてみれば、天才同士がぶつかってお互いを高め合うみたいな展開は、意外と描いてないですね。

北野 それ、けっこう難しいところですよね。

かっぴー エレンがニューヨークで、トニー・ジェイコブスとグラフィティバトルをするシーンはあるんですけど、あそこも「一応、描かなきゃダメかな?」と思って描いたので(笑)。

北野 一応(笑)。


(「左ききのエレン」28話より。この後、二人はガゴシアンギャラリーの壁でグラフィティバトルを繰り広げる)

かっぴー ニューヨークに来て、誰とも出会わなかったら不自然だなと思って入れました。でも、エレン一人だったら絶対にジェイコブスがいるギャラリーまで行かないですよ。かといって、たとえば道端でエレンとジェイコブスが偶然出会ってバトルを始めたら、それこそマンガみたいだし、僕自身そういうシーンには興味もない。だけど、さゆりがそれを演出したと考えたら、まあアリかなと。それで、さゆりがエレンを焚きつけて引き合わせた結果、予想以上に反応してバトルに発展する流れになりました。でも、エレンとジェイコブズの話をあれ以上描く気が起きなくて。たぶん、さらに突き詰めていくこともできるんだけど、やっぱり頂点と頂点の戦いって、点と点なので、あんまり膨らまないんですよね。

北野 めっちゃわかります。僕が『天才を殺す凡人』でそれが書けなかった理由の一つがまさにそうで、天才同士がクロスするイメージが湧かなかったんですよ。圧倒的な才能を持つ者同士、ほぼ同じ次元で、ほぼ同じ世界を見ているはずなのに、全然膨らまない。

かっぴー そうなんですよね。

秀才が、天才に勝つには

北野 バトルともライバル関係ともちょっと違いますが、天才フォトグラファーの佐久間威風が、天才モデルのあかりを撮影するシーンはどうですか? あかりの才能が100%開花する瞬間、凡人である光一が割って入って台無しにするっていう、僕の中でも劇中屈指の名シーンです。


(「左ききのエレン」59話より)

かっぴー あかりの100%を、みんなが見たかったのに……っていうところですよね。

北野 そうそう。

かっぴー あのシーンに限らずなんですけど、なにかが100%の方向に向いた瞬間に、もう僕の気は済んでるんですよね。実際に100%に達しなくても、100%に達するってわかったら。やっぱり、僕は個人の話にはあんまり興味がないんですよ。僕にとって個人が100%に達するかどうかは重要ではなくて、100%を目指す個人と、ほかの誰かがぶつかったときに、どういう関係が生まれるのか。そこを僕は描きたいので。

北野 なるほど。じゃあたとえば、絵にステータス全振りしているエレンに、バランスタイプの神谷をぶつけたりはしないんですか?

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この連載について

初回を読む
左ききのエレン」と考える、天才・秀才・凡人論

北野唯我 /かっぴー

cakesにて「左ききのエレン」第二部を好評連載中のかっぴーさんと、著書『天才を殺す凡人』が発売2ヶ月にして8万部のベストセラーとなっている北野唯我さんによる対談です。両作品で描き出そうとしているものには、お互いにどこか通底するものを...もっと読む

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