生理が来るごとに、私は1か月前と代わり映えのしない自分を発見してブルーになる。毎月毎月、命にならない細胞片を足の間から吐き出して、一体なんの意味があるのだろう。
卒業がいよいよ間近に迫り、同級生たちの間にも焦りが見え始めた。すでに何人かの子は「成功」して、訓練を欠席し始めている。私たちの班に、まだ欠席者はいない。
マミちゃんは最近、こっそり他のレッド・トーンの班に混ざって地上に行っているのがバレて怒られたらしい。やだあの子、そんなにしょっちゅう男を食べたいのかしら。そんな陰口を叩かれても、マミちゃんは全く気にしない。最近は中毒みたいに欲しくて欲しくてしょうがないって言ってた。妊娠するために食べたいのか、食べたくて食べたいのか、本人も分からなくなっているみたいだ。
「妊娠したい、妊娠したい、妊娠したいぃぃ」
そう叫びながら、シホちゃんは夢中で男の身体にかぶりついている。脂汗を流し、ぺったりと髪を頬に張り付かせ、何かに追われているような、苦しいのか気持ちいいのかわからない形にひしゃげた顔で一心不乱に腰を揺り動かしている。
私は二人から顔を背け、代わりに遠くの空を見上げる。来月はまた、F-1地区のあたりが狩猟エリアに指定されていたはずだ。
来月、また彼に会える。そう思うだけで気が狂いそうになる。
エイジくんの顔が見たい。もっと近くに寄りたい。抱きしめて骨を粉々にして、ごりごりと腱を噛み切って、ひとかけらも残さず全てを飲み下してしまいたい。 彼の柔らかそうな腹部に歯を立てて内臓を引きずりだして、ぶちゅぶちゅって噛み潰して、髪も爪も眼球も全部私の糧にして、すっぽりと体内に納めてしまいたい。
そう思った瞬間、は、と我に帰る。
だめだ。
「食べない」って彼と約束したんだ。
彼の、子供たちを育てたいって気持ちを尊重するって決めたんだ。
にも関わらず、気付いたら彼の骨を噛み砕くごりっとした感触とか、はりつめた皮膚がぷちぷち裂ける食感とか、筋肉の繊維の一本一本から染み出す肉汁のあったかさとか想像してる。
どうしよう。私、食べたいんだエイジくんを。
こんなにも強い食欲が自分にあるなんて思ってもみなかった。あああ食べたい食べたい食べたい。好き。食べたい。一緒にいるには食べられない。でも、他の女に食べられるのは、もっと嫌。
海、が見たいな、ってふと思った。
この気持ちも、戦いも妊娠もぜんぶ忘れて、あの、とろっとろの液体栄養剤(リキッド)みたいなあたたかな碧の中に身体を沈められたらどんなにいいだろう。
※
「まぁた、この子はトリップしちゃってるよ」
ヒトミちゃんの声が急に耳元で響いて、私ははっと顔を上げた。 いつのまにか授業は終わり、教室には私とヒトミちゃんしか残っていない。
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