ピュア

助けてくれたのは、男。私たちが捕食する相手。

SFマガジン6月号に掲載された小野美由紀さんの「ピュア」を特別公開します。タイトルの通り、ある純粋な性と生を描く遠い未来の物語。
「私」ことユミは学園星ユングに暮らす「普通の」女の子。女性はこの時代、国を守るために子供を産むこと、妊娠を使命づけられている。ただしそのためには、地球に暮らしている男たちを狩り、文字通り「食べる」ことが求められていた。
助けてくれた男は、何かが違っていて…?

「あ、お前、何やってんの」

 突然、低い声が空から降り注ぎ、太陽光を遮って何かがぬっと頭上に現れた。

「あー、挟まれてんのか、これ。大丈夫か?出れる?」

 それが男の頭だって気づくまでに、2、3秒かかった。驚きのあまり全身が硬直する。ごく稀に、狩りの最中に男に反撃されて殺されちゃう子がいるんだ。それは私たちの間ではもっとも不名誉な死に方だった。

 男はぐるりと私の周りを半周し、テトラに手をかける。逆光のため顔立ちはわからない。

「動かせるかなあ、これ」

 女の私でも無理なのに、男の力でなんて絶対に不可能だ。そう思うけど、男は冷静な様子でテトラを押したり引いたりしている。

 そのうち、ちらりとこちらに視線を向けてこう言った。

「なあ、これどかしたら、お前、僕の事、食べる?」

 食べる、って?

 当たり前だ。男と見れば襲う事。単純すぎるぐらい明確なルール。でも……

「お願いだからさ、食べないでくれよ」

 そう言うと、男はその辺に落ちていた鉄パイプとブロックを拾い上げた。器用にテトラの足にパイプを挟み、てこの原理で浮かせようとする。やがて、ずず、ずず、と砂を擦る音を立ててテトラは動き始めた。突然のことに頭がついてゆかず、私はただ、ぽかんとそれを眺める。

 そのうち、太陽が雲間に隠れ、濃い影の中に逆光に遮られていた男の目鼻立ちが少しずつ現れ始めた。

 すっと通った鼻筋。形の良い顎、涼しげな切れ長の眦。

 どき、とした。ヒトミちゃんに似ている。ううん、それだけじゃない。私、こんな綺麗な男、今まで見たことない。

 そもそも、男をこんな風にまじまじと見つめたことなんて一度もない。性交はできるだけ速やかに終え、後は即座に捕食すること。そう教わってきたんだもの。

 やがて生まれたテトラの隙間から、やっとの思いで私は這い出た。

 砂だらけの体を払う。全身痺れて痛いけど、うん、大丈夫。異常はない。

 ありがとう、そう言おうとして振り返った途端、

「食べるなよ!」

 耳をつんざく大声に、私は驚いて飛び上がった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ピュア

SFマガジン /小野美由紀

SFマガジン6月号に掲載された小野美由紀氏の「ピュア」を特別公開します。タイトルの通り、ある純粋な性と生を描く遠い未来の物語です。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません