ピュア

男の体のどこが好きかって言われたらまずはモツ

SFマガジン6月号に掲載された小野美由紀さんの「ピュア」を特別公開します。タイトルの通り、ある純粋な性と生を描く遠い未来の物語です。
「私」ことユミは学園星ユングに暮らす「普通の」女の子。女性はこの時代、国を守るために子供を産むこと、妊娠を使命づけられている。ただしそのためには、地球の男たちを狩り、文字通り「食べる」ことが求められていた。
日常にうんざりしながら、ユミは今日も地球に降り立つ――

「だぁるい」「あ、お菓子忘れた」「今日の前髪、変じゃない」「いいよ、どうせ誰も見ないし」

 好き勝手に喋る甲高い声が、狭い運輸艇(シャトル)内に反響する。

 地球に到着直前の機内はレッド・トーンを迎えた女の子たちの青臭い匂いでいっぱいだ。火でも点ければたちまち引火爆発を起こしそうなほどに。

「F-1地区かぁ。ほんとついてない。あんなの下級労働者の集まる場所じゃん」

 後ろの席に座ったマミちゃんが、また文句を言っている。

「でも味はよくない?私、シティの中心にいる男よりかは好きだな。スジとアブラミのバランスがちょうどいいんだよね」

「あんたは固い肉好きだからね」

 みんな味なんて大してわかんないくせに。そう思いながら、私は眼下に広がるのっぺりとした地球を眺める。

 汚くて、不便で、小さくてかわいそうな男たちの世界。彼らはきっと死ぬまで悩まない。妊娠、しなくていーし。クニ、守んなくていいし。コドモ、育てなくていいし。対して私たちは戦って狩りをして、子供を産んで育てて、また戦って、死んで、やることはいっぱいあるにも関わらず、ここはまったく退屈で、私たちはその退屈の穴ぼこを埋めるように、それらを切り貼りして日常の中に組み込んでゆく。

 とか言ってる間にあっという間に地球、今日のシティの天気は曇り、加えて私たちが今回指定されたF-1地区はシティの中でも最下層って言われてるとこで、目の前には放射能汚染された瓦礫や崩れ落ちた高架道路、ひび割れた大地が広がるばかりでテンション上がる要素は0、だもんで一部の熱心な生徒以外はみんな、瓦礫に腰掛けて爪をいじったり、うだうだ、おしゃべりなんかしながら、迎えが来るまでひたすら時間を潰そうとしているのだった。

「いっくよーん」

 目の前でマミちゃんが思いっきり助走をつけてジャンプする。弾丸のように尖ったマミちゃんの体はたちまち車2、3台をぶっ飛ばし、狙いをつけた男の身体にヒットした。衝撃で二人はもつれ合い、地面をゴロゴロと転がる。

 男はマミちゃんに押し倒される寸前「え?おれ?」って顔してた。マミちゃんは有無を言わさず馬乗りになり、鋭い爪で男のズボンを切り裂く。一緒に太ももがぱくっと裂け、男はぎゃあ、と絶叫した。そんなことにはおかまいなしに、マミちゃんは男の両膝の間に足を割り入れ、勢いよく飛び出たペニスを片手でがし、と捕まえる。ひょろりと天に向かって屹立した、哀れでこっけいな男の器官が、マミちゃんのまぁるいお尻の肉の谷間にたちまち飲み込まれてゆく。

 マミちゃんにはためらいがない。ゴールをまっすぐに目指すスプリンターのように、まるで寸分の曇りもなく自分の欲しいものが分かっているみたいに、潔く男を身体の中に引き入れる。

 そのうち、 めりめり、ぽーん。

 と音がして、バレーボールみたいに軽々と、男の頭が私の足元に飛んできた。まだ射精も済んでいないのに。

 びゅるるる、と男の首から勢いよく血が噴き出す。今度は腹。マミちゃんの黒いエナメルに覆われた爪が、男の腹をまっぷたつにかっさばき、内臓がでろ、とこぼれ出る。ピンクに白い脂肪のアクセントの入った、キレイで可愛らしい消化器たち。マミちゃんはそれを千切るのも忘れて夢中で掻きこみ、大きく喉を波立たせて飲みくだす。

 男の体のどこが好きかって言われたらまずモツ。次に筋肉。次に脳。別に美味しくなんかない。ただの本能だから。美味しいかどうかなんて考えない。他にどうしよーもない、ただ、口に運ばなきゃやってらんない。そう、やってらんないからやるのだ。理由なんてない。気持ちよさも、喜びも、責任も、なーんにもない。ただ、やってらんない、っていう、空洞があるだけ。

 私は友達の狩りを見るのにも飽きて、一人、その辺を散策することにした。

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SFマガジン /小野美由紀

SFマガジン6月号に掲載された小野美由紀氏の「ピュア」を特別公開します。タイトルの通り、ある純粋な性と生を描く遠い未来の物語です。

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Miyki_Ono 【第二回】 7回連載中の第二回が公開されました。 ”汚くて、不便で、小さくてかわいそうな男たちの世界。彼らはきっと死ぬまで悩まない。妊娠、しなくていーし。クニ、守んなくていいし。コドモ、育てなくていいし。” https://t.co/yAFWqvXmqR 5ヶ月前 replyretweetfavorite

Miyki_Ono 【第二回】"男の体のどこが好きかって言われたらまずモツ。次に筋肉。次に脳。別に美味しくなんかない。ただの本能だから。理由なんてない。気持ちよさも、喜びも、責任も、なーんにもない。ただ、やってらんない、っていう、空洞があるだけ。" https://t.co/yAFWqvXmqR 5ヶ月前 replyretweetfavorite